10.蒼一の答え

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 私も思い出す。確か挨拶回りの途中で、咲良は車椅子の老人の存在に気づき自ら近づいた。ビュフェ式だった食事を老人のために運び、談笑していたのだ。母はそれをよく思っていないようだったが。  父は頭を掻いて言う。 「あの方ね。さっき言った取引先の会長だったんだよ」 「ええ!?」  声を上げたのは咲良だけではなく私と母もだった。見覚えのない老人だと思っていた。結局挨拶する前にいつのまにかいなくなってしまったので誰だったか知らずじまいだったのだ。  私は首を傾げて父に言った。 「あの会社の会長、って。名前だけは存じてますが、もう現役からはだいぶ遠ざかっているとか」 「そうなんだよ。かなり前に病に倒れて、そこからは経営は子に託し現役からは退いていた。長く闘病生活を送られて、今は完治しているらしい。その間にだいぶ風貌も変わってしまったみたいでね。私もあの日気付けなかった。    だが彼はそれを利用して、面白半分で自分の会社と関わりのある相手のパーティーとかに参加してたらしいんだよ。多分様子見がしたかったんだろうな。  会長だと名乗らなければ大概の人間は軽く挨拶して終わりだったみたいで、あんなふうに料理を運んだりしてくれた未来の社長夫人がかなり新鮮だったようだよ」
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