10.蒼一の答え

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 顔を上げた父は、仕方ないとばかりに頷いた。私は今一度母と新田茉莉子を振り返る。母は苦虫を噛み潰したような顔をしていた。せめて最後に咲良に謝罪の一言でもあればいいと思ったが、それは何もなかった。  部屋の隅に立っている新田茉莉子は、両手をぎゅっと握り締め、真っ赤な顔で目に涙を溜めている。咲良もその様子に気づき、心配そうに何か言いかけたのを私は止めた。もう関わらなくていい、と。  そのまま無言で二人家を出た。玄関の扉を閉める直前、再び父の怒りの声が聞こえてきたが無視した。  ずっと握っていた咲良の手は離すことなく、お互いの手は少しだけ汗ばんでいた。
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