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自然と自分の口からは吐息が漏れた。そしてまた馬鹿みたいに涙がじわりと浮かんでくる。それに気づいた彼は、何度もその手で私の涙を拭いてくれた。しっかり蒼一さんの顔を見ていたいのに、涙で濡れたまつげでぼんやり視界が揺れる。
私の首元に垂れる彼の髪に気づき、そっと手を伸ばしてそれに触れた。サラリとした色素の薄い髪で、心のどこかで触れてみたいと思っていた。少し蒼一さんの動きが止まるのがわかる。それでも、彼は何も言わずに私の好きなようにさせてくれた。気持ちいい髪を何度か撫でる。
心臓は今にも止まってしまいそう。多分、彼にも聞こえてる。
蒼一さんに何度も落とされるキスは慣れることはない。角度を変えるだけで味も変わるように思えた。脳内は沸騰寸前。そんな私を気遣ってか、彼は何度もぎゅっと抱きしめてくれた。
私とはまるで違う長い指、広い肩幅、低い声。その全てを忘れたくないと思った。今、この世界に存在しているのは私たち二人きりのような錯覚に陥りながら、私はそんなことを考える。
幸せで、心地いい。
蒼一さんに抱きしめられ、二人の体温が溶け合うと、またしてもぐっと温度が上がる気がした。
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