11.二人の未来

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 蒼一さんも笑う。二人の笑い声が重なり少し経つと、彼は私の手をそっと取った。開いた私の掌を見て微笑む。 「力抜けた?」 「え?」 「緊張で拳握り締めてたでしょ。手のひらに爪の跡ついてる」 「あ……」  気づかなかった。自分で確認してみると、確かによほど強く拳を握っていたらしくくっきり爪の跡がついている。  蒼一さんはもう拳と作らせまいというように指を絡めて手を握った。自分より大きなそれを私も握り返す。  少し紅潮した彼の顔を見上げてみれば、柔らかな笑顔が私を見ている。 「力抜いて」  蒼一さんがそう微笑んで囁いた。言われたばかりだというのに強張ってしまった自分を落ち着けるために、ひとつだけ息を吐く。  手のひらに伝わる体温が心地いい。ずっとこうしていたいと思う。私が待ち望んでいた時間。  蒼一さんが私の額にひとつキスをした。ぼんやりと見上げる彼の顔は、情けないことにまたしても涙で滲んで見えなかったのだ。  目が覚めた時、やけに頭がスッキリしていた。あ、寝坊したかも。覚醒して一番最初に思ったのはそれだった。  だがほぼ同時に、間近に白い肌が見えてギョッとした。蒼一さんは面白そうに笑って私を見ていたのだ。 「そ、蒼一さん!」 「おはよ。よく眠れた?」
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