11.二人の未来

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 嬉しそうに言った蒼一さんに、そういえば教えるタイミングを逃していたことを思い出す。驚かしてやろうと思って黙っていたけど、彼のそんな顔は見ることは出来なかったな。私は小さく頷いた。 「山下さんに教わって」 「すごいね、全然気づかなかった。たった三ヶ月で山下さんの味マスターだ」 「とんでもないですよ、山下さんの教え方が凄く上手だったからです。それにいまだに失敗するんですよ、鍋吹きこぼして掃除するのが億劫なんです」  蒼一さんの笑い声が寝室に響いた。釣られて私も笑みをこぼす。たわいない会話だが、昨日までとは全然違うと思えた。幸福な時間を噛み締めていると、蒼一さんの笑い声が収まる。ぼうっとどこかを見つめ、長いまつ毛が揺れる。何か考えるようにしたあと、彼は私を見て言った。 「それともう一つ提案なんだ。昨日の夜思ったんだけど」 「はい、何かありましたか?」 「結婚式、しない?」  思ってもみない言葉に目をまん丸にした。結婚式、とは? 私たちはとっくに済んでいるものなのだが。  彼はそっと手を伸ばして私の毛先を触る。それを遊ぶようにして話した。
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