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そういうと、進みかけた足がぴたりと止まった。ゆっくり彼が振り返る。少し鼻を赤くした短髪の彼は、白い歯を出して笑った。
「もう離婚とかすんなよ」
ふざけたようにそう言うと、蓮也は足早にそこから去っていった。彼の後ろ姿が見えなくなるまでじっと見送る。
気持ちを伝えないと後悔するよ、と言ってくれた蓮也の言葉を思い出す。あれほど説得力のあるセリフもない。彼はちゃんと私に気持ちを伝えてくれていたんだから。
いつかきっと、またどこかで会えた時、私も彼もお互い幸せでありたいと心から思った。
「咲良ちゃん?」
背後から声がする。振り返ると蒼一さんが玄関から出てきたところだった。私が持つ荷物を見てすぐに察したのか、すっとカバンを受け取りながら言った。
「蓮也くん、来てくれたんだ」
「はい、私の親に住所聞いたみたいで。届けてくれました」
「僕もお礼言わなきゃいけなかったのにな。昨日失礼な態度取った」
「余計なことしたのかもって、蒼一さんに謝っといてって言われました」
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