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さっき我慢した涙がついコロンと落ちた。そんな私に気づいて、お姉ちゃんは持っていたかばんからハンカチを取り出して優しく拭き取ってくれる。
分かってた。
もし私と蒼一さんが結婚したいなんて言い出せば、周囲から反感を買う。きっと姉の婚約者を奪った妹として白い目で見られることになった。
お姉ちゃんが逃げたことで、私たちは自然と結婚する流れになり、少なくとも姉から婚約者を取った妹という目では見られなかった。
お姉ちゃんはきっと分かってて、悪役になってくれたんだ。私のためを思ってあんな形にしてくれたんだ。
「ちょっと。そんなに泣いたらメイク取れるわよ、今から本番でしょう」
焦ったようにお姉ちゃんが言う。私は泣かないように堪えながら掠れた声でいった。
「ありがとう、お姉ちゃん」
ハンカチで涙を拭き取る手がピタリと止まる。姉は少し戸惑ったように視線を泳がした後、にっこりと笑った。
「やだな、なんか美化してない? 私逃げた後も悠々自適に過ごしてるのよ。遊びまくり。まあ、さすがに遊び飽きてそろそろちゃんとしようかなーと思ってるとこ」
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