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姉がいなくなった部屋で、私の鼻を啜る音が響く。どうしよう、確かにメイクが落ちちゃうかも。近くに置いてあったハンカチを取ろうと手を伸ばすと、先に蒼一さんがとってくれた。
私の正面にしゃがみ込み、さっきお姉ちゃんがしてくれたみたいにそうっと涙を拭き取ってくれる。
無言で私の目尻に布を当てながら、蒼一さんが呟いた。
「咲良ちゃん。さっき綾乃に誓ったこと、僕は死ぬまで忘れない。もう君を悲しませない」
マスカラで伸ばされたまつ毛を揺らす。目の前の蒼一さんの瞳に、私がしっかり映っていた。
白いタキシードは眩しい。目がくらんでしまいそうだ、と思った。
「たくさん泣かせた。その分、たくさん咲良ちゃんを笑顔にしたい。
これから先何年、何十年と経って、自分が年老いていく中で、隣に笑ってるのは君がいい」
そっと私の手を握る。温かな大きな手に包まれ、私は胸が温かくなるのを感じた。
ああ、いいな。
年老いてシワが増えて、それでも隣にいてくれるのがあなただったら。
小さな頃からずっと憧れていたあなただったら、それは何よりも幸せなこと。
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