落ちこぼれ教師とぼっちの優等生の関係について語ろう

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落ちこぼれ教師とぼっちの優等生の関係について語ろう

 本田つかさと日下健。ふたりの関係を説明しよう。  真面目で優しい日下健であったが、男性教師がどうにも苦手だった。目が合うだけでピリピリ緊張するのである。  これで教師をめざしているというのも、ある意味大変勇気のいることである。  それでも我慢し真面目に授業を聴き、予習復習を欠かさず優等生の地位を維持していた。  女性教師のつかさとだけは、何とかコミュニケーションがとれた。数学の苦手な健にとって、これは好都合だった。  授業が終わるとよく教壇に駆け寄り、つかさに教科書の分からない点について質問した。つかさは休憩時間ギリギリまで健に説明した。  そしてそれをクラス委員の美沙子や取り巻きの生徒たちが冷たく見守っていた。   「なるほど。ああやってこつこつ内申のポイント稼いでいるわけだ!」  美沙子は陰で嘲笑っていた。 「まったくな。結城の言う通りだ」  美沙子の彼氏候補生。自他ともに認めるバスケットボール部のイケメン、小池が絶妙のタイミングで相槌を打つ。  二学期に入ってからもつかさと健、ふたりだけの関係は続いていた。  中間テストの直前。  数学Ⅰの授業が終わると健は教壇に行き、よく分からない公式についてつかさに質問した。  いつもと同じ。  つかさは何度も黒板に、説明を書いて消してを繰り返す。  緊張して何度も言い直した。何度も言葉に詰まった。  クラス委員の美沙子が、その度に冷たい笑いを浮かべ自分の席から見守っていた。美沙子の回りには取り巻きの女子生徒に男子生徒。   その中にはバスケットボール部のエース、小池の姿もある。イケメンでスポーツマンは得である。美沙子の本命は、小池だという噂がクラスでは流れている。 「やれやれ」  美沙子がわざとらしく肩をすくめてみせる。 「結城があきれるのもムリない。またあのふたり、面白いことやってるぜ」  小池がいつもの通り、絶妙のタイミングで相槌を打つ。  他の取り巻きたちが続ける。  「またあのふたり、面白いことやってる」 「ホントに恥ずかしいね」 「特進コースの恥」 「聞く相手間違えてない?時間のムダだと思うけど……」 「ホント、ホント」 「都築先生のとこ行けばいいのに」  小池が首を左右に振る。眼鏡の奥に冷たい視線。 「都築先生って体育会系だから、日下のヤツは怖いんだよ」 「言えてる」 「きっとそうだ」  休憩時間のほぼ半分使って説明が終わった。つかさはその公式の例題が書かれたプリントを健に渡した。裏面が「解答と解説」になっている。  どれも簡単な問題ばかりなので、公式を理解するのに役立ちそうだ。健は大きく頭を下げた。 「せ、先生。あ、ありがとうございました」  なぜかつかさまで大きく頭を下げていた。  ふたりの様子を見て、美沙子たちはニヤニヤ笑っていた。 「面白いギャグじゃない」  美沙子の冷たい口調。 「結城の言う通り。ネットに投稿したら受けそう」  またまた小池が、絶妙のタイミングで相槌を打つ。  彼らの会話をつかさも健も知らない。  つかさは後で「例題補足」と書かれたプリントまで健に届けてくれた。   ところがである。  嬉しい偶然とはこういうことを指すに違いない。  つかさに詳しく説明して貰った公式が中間テストに出題され、学年順位が三位まで上がった。  学年ニ位の美沙子に迫る勢いだった。  健はつかさに感謝して、キチンとお礼をしなければと心の中で思っていた。  だが心の中でだけだった。  
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