プロローグ

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 一時間後。ベッドの上。  国際カンパニーの総務課資料室の社員。  そして学習スクールのボランティアで中高生たちに慕われている日下健は、ものすごく恥ずかしい格好をしていた。  両手首を前縛りにされ、体中をロープでグルグル巻きにされたうえ、足首まで縛られていた。  こんな姿を見たら、 「お兄ちゃん先生」 と呼んでいる学習サークルの生徒たちは何と思うだろう。  それだけに終わらない。  つかさはストッキングを履いた太腿も露わにベッドのシーツの上に座り、健を膝の上で抱っこしていた。ストッキング止めが妖しく電灯の灯りに映える。  つかさといえば、何度も健の額や頬、口にキスの雨を降らせる。  もう絶対手放さないという固い決意がみなぎっていた。 「こんなひどいことやめてください」  健が涙を浮かべて訴える。 「本田先生がキライになりますから」  そう言って横を向く。  つかさは悲しそうな顔を向ける。そのまま健の口に舌を入れて長い時間、口の中を舐めまわした。  それから自分までシクシク泣きながら言う。 「だって日下くん」  次は耳たぶを長い時間噛む。  それからまたシクシク泣き始める。 「だってこのままじゃ、日下くんが不審者に拐われてしまいます。そんなことになったら私……」  いや、つかさ自身が十分不審者ではないのだろうか。自分自身を振り返って欲しい。 「日下くんが家庭の事情で進学出来なくなったとき、何も力になれなかったこと、ごめんなさい。今でも後悔しています」  つかさの目から大粒の涙がこぼれ落ちた。  健が首を振る。 「僕の家庭の問題なんです。先生には何の責任もありません」  健も涙を流していた。確かに悲しくて残念な出来事だった。  それでも自分のために泣いてくれる人がいることを知った。  こんなにも幸せなことはない。  健はそう考えていた。  進学を断念した後、紹介する人がいて国際カンパニーに就職が出来た。  そして自分を助けてくれる人がどこかにいることを知った。  だから今は、自分も困っている人のために何か出来ればと心に決めている。  進学出来ない以上教師にはなれないが、違うかたちで中高生たちに勉強を教えることが出来る。  そんな思いで始めた無料の学習サークルだった。  だがつかさの方は、どうしても健を大学に入れて自分と同じ教師にしようと考えていた。  気持ちは本当に嬉しいのだけれど、「婚約者(フィアンセ)の義務」という言葉が入るのはどうも……。   「婚約者(フィアンセ)の私のマンションに引っ越しましょう。日下くんひとりなら私の給料で養えるし、変な人たちから日下くんを守れる」  何かすごく一方的な主観が入っているように思える。 「そ、それは出来ません」  健はあわてて辞退する。  怖ろしい修羅場が三人の女性の間で繰り広げられるのは間違いない。  三人の女性が傷つけ合う姿は絶対に見たくない。 「前から気になってますが、一体あのふたり何ですか?今までのこと全部話してください」 「そ、それは」  つかさがまだシクシク泣き始める。 「もう教務主任なんてどうでもいいんです。日下くんが相手にしてくれないのなら、問題教師になって学校ををクビになって、日下くんの写真を胸に、日下くんのことを心に浮かべながら仏が浦から飛び込み自殺します」 「ちょっと。そんなこと言わないでください。教頭、校長めざしましょう。本田先生」  つかさが健の首筋をペロペロ舐め始める。  ニコニコと散々舐めまわしてから、改めてまたシクシク泣き始める。 「それじゃあ、今までのことふたりで振り返りましょう。日下くんも卑劣で人格の破綻した憎むべき社会の敵のヤンキー娘と、金にものを言わせる残酷で冷酷な悪役令嬢のことをもきちんと婚約者(フィアンセ)の私に話してください」    つかさはシクシク泣きながら、また健の口を吸い始めた。 「きちんと話してくれなかったら、私は学校辞めて六甲山の崖から飛び降り自殺します」  いつのまにか終焉の地が、東北から関西に移っていた。  健とつかさの出会い。  そしてつかさがヤンキー娘,悪役令嬢と呼ぶ彼女たちとの出会いとは一体?  
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