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これが青春なのか?
「日下くんってさ」
女子生徒のひとりが冷たく笑う。
ここは進学校で知られる白鳥高校二階。一年のクラスが並ぶ。
特進コースの教室前の廊下。二学期の期末テストを二週間後に控えた放課後のことである。
階段へ向かう生徒が、ひっきりなしに廊下を横切っていく。
特進コースの女子生徒四人が、廊下の壁にもたれ、勉強とまるで関係ないお話の真っ最中。
今、ここで「日下」の名前の出たことに注目して欲しい。
しかも希望がなくなるくらい冷たい口調なのだ!
「定期テストのときだけ、クラスメイトが思い出すんだよね。中間は学年三位だったし!」
女子生徒のひとりが手にしたファイルに目を落とす。健に借りた「現代文」「古典」のノートのコピーが挿んである。そればかりではない。ポイントを教えて貰ってメモした紙。四人全員がファイルを持っている。「英語I」や「数学I」のコピーを持っている女子生徒もいる。
「いつもは、いるかいないか分からない可哀想なキャラだけどね」
「親切なのはいいんだけど、それだけじゃ、あたしら相手にしないから」
「これから三年間、ずっと『ぼっち』のキャラ確定みたい」
「優しいからテストのときは助かってるんだけど」
「可哀想。ノート貸した人間にこんなこと言われて」
「それが日下くんの運命だってんの」
ひとりの男子生徒が彼女らのそばを通り過ぎる。見つからないよう、そっと三人の方を振り返る。
男子生徒は一年特進コースの教室のドアをくぐった。
一番前の窓際にある日下健の席。数少ない友人の中山くんが「現代文」のノートを返しにきた。
中間テストで学年三位。健のノートは字がきれいでポイントが分かりやすいと好評だった。
「日下、ごめん。助かったよ」
「気にしないで。同じノート二冊作るから僕は困らないから」
眼鏡をかけた真面目で優しそうな少年。はにかんだ笑顔がトレードマーク。紺のブレザーの制服が、小柄な健には少し大きかった。
「それからな」
中山くんが声をひそめる。
「服部たちが日下のことディスってた」
健はいつものはにかんだ笑顔を見せた。
「そう?」
「あいつらにもうノートなんか貸すなよ」
健は返事をしなかった。
「いつでもノート貸すから声かけて」
そう笑顔で中山くんに声をかけた。寂しそうな表情だった。
「いるかいないか分からないキャラと言っていた。ひどいだろう」
「そう? 教えてくれてありがとう」
「健のことなんか相手にしないと言ってた。ひどすぎるよ」
「そうなの? しょうがないなあ」
「三年間、ずっと『ぼっち』だって! 許せんな」
「ありがとう。もういいから」
「そのうえ健のことを……」
「本当にもういいから」
健は知らなかった。離れた席から、クラス委員の結城美沙子が、じっと健のことを見つめていること。
ポニーテールに美しく整った顔立ち。勝気で活発なクラスの中心メンバー。
二学期中間テストでは学年二位。
健と順位を争っているといわれても過言ではない。
だが彼女、健と友だちになりたいワケではなさそうだ。
冷たく嘲笑うような表情を健に向けていた。
彼女が廊下に出ると、さっきの四人に近づいていく。
「あなたたち」
笑顔で話しかける。だが美沙子の目は全然笑っていなかった。
四人が持つ健のノートのコピーをじっと見ている。
「日下くんの三位は裏がある。彼は私を追い抜くことは出来ない」
四人は恐ろしいヘビに狙われたカエルのようにオドオドと下を向く。
「後で色々分かったときは、関係のあった人たちは同罪だから」
そう言い残し胸を張って歩き出す。
「結城さん。彼にノート借りたのは……」
「私に借りると、後で色々用事を言いつけられると思ってるワケでしょう。でも私を敵に回すよりはいいんじゃない」
美沙子の言葉に、四人があわてて後を追う。
「待って!話を聞いてください」
「言うこと聞きますから」
美沙子から敵意を向けられている日下健。
一体、日下健とはどういう生徒なのか?
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