衝動と逃避

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「ほら、例えばこれみたいに。バナーとアイコンの絵をまず描くね。あとは、歌に合った絵を描いて、そこに歌詞をテロップで流す感じでいい?」 「いい!いいよ、めちゃくちゃ良い!ってかいいの?!そこまでしてもらって・・・」 「まぁ、私の絵を使うからには、本気でいかないとね。任せてよ」 最初は歌をとりあえず残せれば、そして少しでもいいから聴いてくれる人が居ればいい、それだけだった。それはもう、現実逃避に近い想いでもあった。でも紗和のおかげで、私の衝動は確かにひとつの作品になろうとしていた。 結局私達は深夜まであれこれ相談をし、紗和はそのまま何枚か絵を描いてくれて、気付けば時計は終電が無くなる時間になっていた。明日は土曜日で仕事が休みなため、今夜は紗和のアパートに泊めてもらうことにする。 久々に妹と枕を並べて寝るのは、何だかくすぐったい気持ちになった。 「何かさ、嬉しいな。私の好きな物とお姉ちゃんの好きな物、合わせて何かできるなんてさ」 オレンジ色に光る豆電球を見つめながら、紗和が声を弾ませる。それは何だかイキイキしているように感じられて、私も嬉しくなる。 「うん。紗和、本当にありがとうね」 「お姉ちゃんはさ、好きな歌たくさん歌えばいいよ。私が素敵に編集して、みんなに届けるから。だからさ、身体、無理だけはしないでね?」 「ありがとう。大丈夫、体調見ながら、無理ない程度にやるから」 病気への不安な気持ちと紗和と作る動画へのワクワク、2つの気持ちが入り交じって目を閉じてもなかなか眠れなかった。やがて聞こえてきた妹の寝息に色々な想いを馳せながら、ようやくウトウトできたのは明け方になってからだった。
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