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大丈夫だとは言われたけど。
このまま放っておいたら、私は死んでしまうわけで。
それよりも私はこれから、胃の一部を切らないといけないわけで。
そんなことされて、私はちゃんと生きていられるのだろうか。
言葉にならない不安が、黒い渦になって、私に襲いかかる。広すぎるカラオケルームの隅っこで、下を向いていると頬を生暖かい涙が伝っていく。その暖かさで、まだ自分は生きているんだと感じる。隣の部屋からは、男子高校生が楽しそうにはしゃぐ声が薄らと聞こえてくる。まるで自分だけが世界に取り残されて、隔離されているようだと思った。
こんなに近くに「死」を感じたのは、初めてだった。
3年前に亡くなった祖母は焼かれる直前、白い着物を着て、綺麗に化粧をされていた。私が見た直近の祖母の中で、一番綺麗な姿だった。いくら話しかけても反応のない祖母は、まるで別人のようで、どこか現実味が無かった。
自分もあんな風になってしまうのかと思うと、怖くて仕方がなかった。
「ばあちゃん、幸せだったんじゃないかしら。子どもをしっかり育てて、孫にもひ孫にも恵まれて」
祖母の棺の中に花を飾りながら、最後に母はそんな風に呟いていた。あの時はそうだね、なんて適当に頷いたけど、そんな母の言葉に私は違和感を持っていた。
子宝に恵まれていたからって、祖母は幸せだったとは限らない。彼女が本当に幸せだったかなんて、今となっては誰も確かめようがないのだ。
それでもまだ、祖母は90を目前にして亡くなった。やり残したことも、後悔もあったかも知れないが、程々に生き切った感じはする。
それに比べて私はどうだろうか。
今、ここで死んだら?
幸せだったって思える?
祖母のように推測でも誰かに、「幸せだったんじゃないか」なんて言って貰えるだろうか。
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