炎の画家~悲鳴でたたき起こされたあの日の前夜いったい何が起きたのだろう~

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炎の画家~悲鳴でたたき起こされたあの日の前夜いったい何が起きたのだろう~

「素晴らしい絵だ。」  白髪オールバックに茶色のツナギを着た教授が、一人で拍手する。  ここは極東(きょくとう)美術大学絵画科展示室。そもそも、本来なら自分はこんなところにいる人間ではなかったと思っている春日陸(かすがりく)は、汚れたTシャツにジーンズという姿で教授の横に立っていた。  同じ大学でも、音楽系の学生はおしゃれな格好。美術系の学生と教授は皆、汚れても気にならない(ぬの)で身を包むだけだった。  スラリと背が高い教授は、春日陸の横で、陸が書いた絵を見て解説を始めた。  クラスの人間は、全員が席について、陸の作品に集中する。 「写真と見間違うほどの細密な描写。完成されたハイパーリアリズム絵画だ。現実をただ写し取ったわけではなく、現実の写実的な誇張を施すことによって生き生きとした芸術になっている。  ただ、写真のような絵というものは、君の主観的解釈が入っていない。  これから、君の絵はどんどん変化していくと思う。  将来が楽しみだ」  教授は、ニタリと笑い、陸に握手を求める。  陸は、握手しながらお辞儀をした。 「教授、ありがとうございます」  課題作品の教授講評を聞き、こうやって、日本最高峰の極東美術大学で学べているのは夢のようだと陸は喜びを噛み締めていた。
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