炎の画家~悲鳴でたたき起こされたあの日の前夜いったい何が起きたのだろう~

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 席について、他の生徒の講評を聞いていると、陸に向かって、周囲から嫉妬、敵意といった負の感情が飛んでくる。 「おい、陸、すごいな。お前だけだぞ、褒められたの。みんなボロクソ言われたよ。俺もな」  そう言ったのは、同じクラスで、この大学の理事長の息子、小山田俊(おやまだしゅん)だった。  パリッとした柄物(がらもの)のシャツにスラックスという出立ちは絵画科では異質だった。汚れたら捨てればいいなんて思っているに違いない。根っからのお坊ちゃまだ。  彼の言葉に、敵意はなく、彼といる空間に陸は心地(ここち)よさを感じていた。 「いやぁ、たまたま上手(うま)く描けただけだよ」 陸がそう返すと、俊が笑う。 「お前、謙遜しているつもりかもしれないけど、嫌みにしかなってないからな」  父親に似たその笑顔を見ながら、陸は、昔を思い出していた。  子供の頃から画家になるのが夢だった。気がつけば、いつも絵を描いていた。  陸が油彩で描いた絵画作品は、高校生の絵画コンクールを総なめにした。 「大学は、もちろん美大だよな」  担任教師や友人から当たり前のように言われた。でも、陸は進学ではなく就職を希望していた。
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