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「あー」と蒼伊は間延びした声で視線を彷徨わせた。
「……それは、なんだ。なぞなぞか何か?」
そう言って、視線を戻す。
「なぞなぞとは少し違うね。いわゆる水平思考ゲームってやつ」
少女は軽い調子でそう言った。
蒼伊はわざとらしく目を瞬いた。
水平思考ゲーム? ……何だっけか。
「要はね、問題のシチュエーションを当ててほしいんだ」
少女は顳顬あたりに指を添えて続けた。
「ぼくが提示した一見不可解な状況に対して、お兄さんはイエス・ノーで答えられる質問を繰り返す。そしてその真相をズバリ突き止めてもらう、そんなゲームさ」
あたかもエンターテイナーのような言い回しで、少女はそう言った。
ああ、この子はと、小さく息をつく。
なんか相当拗らせているっぽいなと思った。
一人称までぼくときている。
「うわ。そんな露骨に、哀れな道化を見るような目しないでよ」
少女が口をへの字にして言った。
なかなか表現が的確ではないか。
不覚にもそう思ってしまった。
……というか、そんなに分かりやすい顔をしていたのか。
蒼伊は一度少女から視線を外し、その背後にある窓を見やった。
青い空の下、少し遠くに青い海が控えている。
民家や電柱が瞬く間に目の前を素通りしていく。
何の変哲もない風景がビュンビュン流れていく。
時折うすく映る自分の表情を見て、ああ確かになと思った。
当然、絶望はしていない。
呆れているような、少しばかり面倒臭そうな顔が見返してくる。
大体いくら暇だからと言って、見知らぬ男に向かっていきなり訳の分からない問題を投げかけてくるとは、一体どういう了見なのだろう。
──そんな心の声が、ありありと浮かんでいるようだった。
「あれ、無視? 解かないの? 質問は?」
少女は矢継ぎ早に端的な問いを投げかけてきた。
再び少女に視線を向ける。
他所でやれよ、と突き放すこともできただろう。
しかし、少しばかり可哀想だとも思った。
「解いてほしいの?」と一応聞いてみる。
「いんや、正直どちらでも」
だが、そんな気遣いなど知る由もなく、なんとも見事な手の平返しを食らってしまった。
ひくりと口の端が震えるのを感じた。
一体何なんだ。天邪鬼か。
揶揄っているつもりなのか。
だったら話はここまでだと、蒼伊はそのまま無視を決め込むことにした。
少女の姿が目に入らないよう、わずかに通路側に顔を傾ける。
ついでにスマホに視線を落として、ポチポチと自分の世界に入り込もうと努めた。
「あぁ、本格的に無視? ま、それでもいいけど」
それでも少女は飄々とした態度を崩さなかった。
無言が続く。
身じろぎする音など聞こえない。
気のせいだろうか、ずっと視線を受けている気がする。
スマホのディスプレイに指が滑る。
フリック、フリック。……いたずらに画面がスライドする。
……。
気まずい。
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