私がここに来た理由

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私がここに来た理由

  ――これは、まだ世界にスマートフォンが存在しなかった頃のお話。  夏真っ盛りの八月。私はイギリスはロンドン、ヒースロー空港にいた。  日本から一緒に来ている引率の先生においていかれないように、人ごみの中必死についていく。    なるべく余所見をしないようにしているつもりだが、目に映るもの全てが珍しくてつい立ち止まってしまう。看板や案内板の全てが英語で書かれていて、歩いている人間は金髪の白人が多い。  何かの映画で見たことがある、アイスクリームとホットドッグのワゴンに人が並んでいる。食べている人が持っているアイスはビビットピンクにスカイブルー。  あれは、何味なのだろう。美味しいのだろうか。  ボーっとしている私を、誰かが呼んでいる。    ハッと意識を戻すと、さっきまで一緒に歩いていたはずの団体が豆粒サイズになっている。  慌ててスーツケースを引っ張りながら走った。はぐれたら困る。    日本から十三時間。  不安だった長時間のフライトも、機内の映画やゲームに助けられて難なく過ごすことが出来た。機内食はあまり美味しくなかったが、イギリスについてから美味しいものは食べればいい。  世界一ご飯の不味い国だという話をよく聞くけれど、まぁ大丈夫。きっとそんなことはない。どんな国でも、美味しいものはあるはずだ。
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