唄の記憶

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唄の記憶

 七つの子どもは神のうち  水の宮さまもしかたない…… 『加奈子ちゃん、いーい? 裏山の滝には行っちゃいけないって、何度も言っているでしょう? ……裏の滝にはね、水の宮さまが住んでいるのよ。  水の宮さまはね、七才までの子どもなら、水辺で遊ぶ子のタマシを自由に取っていいことになってるの。前にも話したよね? おばさんが水の宮さまに会ったお話。  むかーし、まだおばさんがあなたより少しだけ大きいくらいだった頃。私の弟、つまりあなたのお父さんが、一人で裏山へ遊びに行って滝でおぼれてしまったの。  私は弟のタマシを返してもらうために、滝へ出かけて水の宮さまにお願いしたわ。「どうか、弟を助けて下さい」って。  そうしたらね、水の宮さまは、 「いいでしょう。ただし、その代わりにあなたの命をいただきますよ」って言ったの。  おばさん、とってもこまったわ。でもね、その時いいことを思いついたのよ。 「わかりました。でも、支度ができるまでちょっと待っていて下さいな。うちの裏にある椿の葉っぱが全部落ちたら、その時迎えに来て下さい」  おばさん、水の宮さまにこう言ったの。  知ってる? 秋になるとどの木も葉っぱが落ちるでしょ。でもね、一年中葉っぱが落ちない木もあるの。椿はそういう種類の木なのね。  水の宮さまは、そのことを知らなかったのね。 「それでは、椿の葉っぱが全部落ちたら迎えに行きます」って言って、弟のタマシを私に返してくれたのよ。  多分水の宮さまは今でも待っていることでしょう。うちの大きな椿の葉っぱが全部落ちてしまう日を。  だから、いーい? 加奈子ちゃん。決して裏山の滝に行ってはだめ。おばさん、もう水の宮さまにお願いすることはできないんだから。──わかったわね、加奈子ちゃん』
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