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時おりそよぐ涼しい風が秋の訪れをつげている。
低く、長く響く読経とかすかにすすり泣く声が、開け放した四十畳近い広間のあちこちから聞こえて来る。
私は棺のすぐそばで、喪服がわりの制服のすそを強くにぎりしめていた。
伯母さんが死んだ。
体が弱くて結婚をせず、私が祖父の家に行くたび、実の子どものようにかわいがってくれていた伯母さんが、急に亡くなった。
私は少し顔を上げ、床の間の前にしつらえられた壇上にある写真を見た。五十は過ぎていたはずなのに、十分にきれいだと思わせる顔が黒枠のなかで微笑んでいる。
私はため息をついた。高校に入ってからは、以前のように休みのたびにここへ来ることはなくなっていたが、私と会うのを楽しみにしてくれていた伯母さんが死んだことは、本当にショックだった。
ふと私は耳をすませた。今までは読経で気づかなかったが、わずかに吹く風にのって低い歌声が聞こえて来る。
七つの子どもは神のうち
水の宮さまもしかたない
憂いをおびた、聞き覚えのある単調な旋律。
私は目を丸くした。
あれは伯母さんがよく口ずさんでいた唄だ。
私はあたりを見渡した。変わらない周囲のようすから、この歌声が聞こえているのはどうやら自分だけだと悟る。
水の宮さまもしかたない、しかたない……
私は縁側に目を向けた。読経が終わり、移動を始める喪服姿の親戚に混じって、学生風の見慣れない少年が立っている。
白い顔。闇を深々とたたえたような黒い双眸に、通った鼻筋。
歌声の主はどうやら彼のようだった。私はきつく少年をにらんで座布団の上から立ち上がった。何か一言言ってやろうと思ったのだ。彼は私の視線に気づき、にやりと笑うと誘うような身振りで背を向けた。
私はすばやく玄関へ回り、少年の姿を追いかけた。
*
『加奈子ちゃん。この歌の「水の宮さま」ってね、水の事故のせいで死んでしまった子どものことを言っているのよ。……昔はね、小さな子どもは、事故や病気でとっても亡くなりやすかったのね。だから、昔の人は「七つまでは神のうち」って言って、七歳になるまでは子どもは神様に近いのだから、死んでしまっても仕方がないって考えていたのよ。この歌もそんな悲しい気持ちが込められていた歌なのね、きっと』
伯母さんの言葉を思い出しながら、私は広々とした庭へ出た。道をはさんだ向こう側には、色づきかけた稲穂の海が波うつように揺れている。
私は辺りを見回した。右手の野菜畑の奥に裏山へと続く道がある。少年はその道の手前で私が来るのを待っていた。
年は私と同じくらいだ。口もとに薄く笑いを浮かべてこちらを見ている少年に、私はきつく言い放った。
「あんたが妖怪だかなんだか知らないけど、人の葬式を邪魔するのはやめてちょうだい。迷惑だわ」
「……俺の姿が見える人間が彰子以外にまだいたとはな」
少年は尊大な口調で言った。私が強くにらみつけると少年はかすかに微笑した。
「彰子の姪か。なるほど、彰子によく似ている。お前の方が気が強そうだが。……彰子には世話になったので、少し葬式をのぞいただけだ」
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