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非常にさわやかな朝がやってきた。心地よい水色の空に柔らかい朝日。そしてその下を自由に飛び回ってきた風が、開けたままの窓から会釈する。
私は簡単な朝食を食べ着替えを済まし、割れた茶碗を抱えて部屋を出た。
ゴミ捨て場には、すでによくわからない廃棄物が複数置いてあった。その横にそっと、包んだ茶碗を寝かせる。音もなく、茶碗はゴミになった。
本当はもう少し、この茶碗のそばにいたかった。別れのあいさつをしたかった。しかし、小学生の群れが近づいてきたので足を動かした。動いた足はいつも通り、会社員となって駅に向かった。
その一日、特に何事もなく業務がおわった。来るはずだった悪いことを、茶碗が持っていってくれたのかは分からない。
定時で帰ってきたころには、もう夜の気配がしていた。三日月より薄い月が、まだ黄色味の残る空で銀色の微笑を浮かべている。
いつものように帰ってきた私は、ふと見慣れているはずのゴミ捨て場に視線が向いた。
当たり前だが、そこは奇麗に片づけられ、今朝だされた廃棄物は例外なくすべて回収されていた。朝茶碗を置いた場所には、黒いアスファルトが伸びているのみである。
私の茶碗は行ってしまった。もう戻ってこない。
まもなく夕方が終わるこの空を、延々と眺められそうな気分だった。静まり返ったゴミ捨て場に、どこかの家庭の焼き魚の香りが風に乗ってやってくる。
微笑する月がひときわ輝き、二つ三つと滲んで増えた。深くあいた心の穴には夜がしっとりと注がれ、冷たく沁みた。
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