曇りのち雨

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曇りのち雨

 二十歳の誕生日を迎える前日、もみじ色の手紙が届いた。  差出人は「佐上あいら」。  アパートの銀のポストの中でひっそりと、私に取り上げられるのを待っていた。  平日、月曜の午後。  怒涛の土日を耐え抜いた私は、ぼんやりと部屋のカーテンを開ける。  天気は曇りだが、白に近いグレーが空を覆っていて、明るい。  目を細めて、部屋の真ん中に置いたそれに目をやる。  もみじ色の手紙は、まだ開封されず、そこにいた。  届いたのは金曜で、気付いたのは夜だったから、何かとタイミングがなく、そのままにしていたのだ。  ただ、開けなかったのは、それだけじゃない。 「――なんで、今更」  思い出すだけで眉間にしわが寄る。  そう、あいらには、苦々しい思い出があった――。 *** 「みなみっ」  ばっと机の前にやってきた彼女は、元気な声で私を呼び、許可なく前の席の椅子に腰を下ろした。 「ねえねえ、これみて」  差し出されたスマホの画面には、顔の整ったある男子との写真がびっしりと埋められている。 「かけるくんとデートしてきたんだ」  ここね、かの有名なテーマパークですっ、なんて言って、ペンケースに付けたストラップも差し出す。  ハートの鍵穴に、マスコットキャラクターの耳がついて、うっすらとピンク色。  ペアストラップというものだろうか。 「あ、そうそう」  あてつけだろうか、と曖昧な笑みを浮かべる私に、彼女はそのテーマパークの薄い袋を差し出した。 「みなみにもおみやげっ」  渡され、取り出してみれば、色鮮やかな便箋が入っていた。 「便箋……」 「好きな人いるって言ってたから、ラブレター用!」  彼女からしてみれば、きっと悪気なんてないのかもしれない。  しかし私には、ただの皮肉に思えて仕方がなかった。  なんせ、私が想いを寄せているのは――。 「みなみ?」  ハッとまばたきをする。顔をのぞきこんできた彼女に無理やり口角をあげて言った。 「ありがと」  瞬間、まさに花が咲いた、みたいに満面の笑みを浮かべる彼女は、きらきらと輝いている。  かわいいからこそ、妬ましい。  黒々とした何かが、胸の辺りに広がっていた。 ***
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