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Paragraph 13/解呪ノ儀(3)/Lost Child
「――っは!」
夏喜が覚醒した世界で見た景色は、文字通りの漆黒であった。全身まとわりつくが、動けないほどではないではないことに気付く。
抵抗はあれど、夏基の裡は決まっていた。
――ふざけるな、ふざけるな、ふざけるな。
――こんなの、絶対間違ってる。
――鈴蘭の未来は、鈴蘭のものだ。鈴蘭だけのものだ。決して……。
「君が閉ざしていいものじゃない――!!」
怒り。わかりやすくいえば、夏喜の感情はそれに集約される。
"影"の行き過ぎた守護により、鈴蘭の人生に与えた影響は大きい。万物の事象の介入はあれど、物事には限度がある。閾値は、超えてはいけない。
けれど、鈴蘭に憑く"影"はそれをやすやすと飛び越えた。飛び越えてしまった。その結果がE助のバイク死亡事故であり、鈴蘭の淡い想いは伝えるべき人を見失ってしまった。
夏喜は暗闇の中を見渡し、見えない視界であるものを探す。先程、儀式が始まる前に鈴蘭に装着したルーン文字の祝詞を刻んだ和紙には、夏喜の魔力が込められていた。自身の魔力残滓をたどれば、この"影"の荒波の中でも鈴蘭の居場所がわかる。
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