Paragraph 0/夏喜という女/The Witch

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「君はわたしに嘘をついた。嘘をつくということは何だと思う。隠し事があるからさ。  吸血鬼騒動の田舎に、孤児院から連れ去られた子供、プロテスタントの管轄内での、そして、孤児院を兼ねているはずの教会にしては、あまりにも生活環境が整っていない。ボロボロの建物なのに、異常なまで整備された石造りの広場。  これでは、勘定が合わない。蒔かぬ種は生えない(Nothing comes of nothing.)。さて、はっきり言うぞ、ローワン牧師。  ――」  コツコツと、夏喜がつま先で石造りの地面を蹴る。固く、冷たい音が響く中、笑みを絶やさなかったローワン牧師の顔から感情が消えた。 「君ははじめからきな臭かった。プロテスタントの管轄内なのに、なぜわたしを最初に選んだ。内々で済ませればいいことを、わざわざ無所属に依頼すること自体が後ろめたさの証明だよ」 「やれやれ。異端の魔女め、勘のいい女だ。黙って仕事を終わらせて帰ればいいものを」
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