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「鈴蘭の影のことは大体わかった。けど、その前に君に聞きたいことがいくつかある。いいかな?」
「はい。わたくしで力になれるのなら何なりと」
「単刀直入に聞く。まずは、――鈴蘭の出生についてだ」
その質問は、彼女の予想の中にあったのだろう。表情一つ変えず、けれど、何かを覚悟したように麗蘭は口を開く。
「鈴蘭の父親は、すでにこの世にはいません。そして、そのことすらあの娘は知りません」
「それはご愁傷さま。けど、故人の死因はおよそ関係がない」
冷たい言葉が麗蘭に向けられる。けれど、それすら飲み込むように受け止めていた。
「はい。存じております。父親らしいどころか、――乱暴をされて出来た娘ですので」
鈴蘭の父親は、見ず知らずの男だった。出会いもなく、素性も知らぬ男に夜道で襲われた麗蘭の身体は、何故かすんなりと子を宿した。夜遊びがたたった不幸か、一方的に組み伏せられた麗蘭には為すすべもなく、ただ時間がすぎるのを待っていた。受入れたのではなく、諦めた。そのことで、苦痛を伴う行為自体が早く終わるのならと、初めての行為は不運のもとに終を迎える。
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