Paragraph 9/輪廻の蛇/Annulus

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 医学的にはあり得る事象ではある。麗蘭は当初、二卵性双胎でありながら1つの胎盤で2つの胚がある一絨毛膜性(いちじゅうもうまくせい)双胎(そうたい)という稀な状態で妊娠していた。だが、そのうち1つの胚は、早期に胎盤内から消失しており、母体に吸収されたことで、結果として単胎妊娠になったと告げられた。その後、鈴蘭だけを出産することになる。夏喜は、鈴蘭自体を護る影の正体は、この時消えてしまった片割れの胎児の魂であると推察していた。 「バニシング・ツインが起きた場合、二重人格になる事例がある。その人格をイマジナリーフレンドのように接する場合もあると聞く。けど、鈴蘭の場合は、人格ではなく、独立した魂の状態に近い。独立した魂だからこそ、彼女は『彼』の存在が知覚できていないのかもしれないね」 「はい。"憑き物"の正体は、早い段階から気付いていました。それは、母親としての勘なのか、ノロとしての性質なのかはわかりかねます。表に出ることはなく、守護に特化した存在であるのならと、わたくしは静観していました。ですが、それが影となり、周囲に怪異を起こしてしまっては、わたくしの立場としては対処が必要となってしまいました。事の詳細をお話することができず、夏喜様にもご迷惑をかけてしまい、申し訳なく思っております」
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