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――やはり人影の妖か。まずは、推測は正しかった。次は・・・・・・
「――名を刻め、見えざる君よ、
名を刻め、過ぎ去りし君よ、
名を刻め、在らざる君よ、名を刻め――」
西洋神話と日本神話、悪魔祓いという異なる構造を積み上げた祝詞はいかなる事象にも溶け込むようにアレンジしたものだが、影の性質が人の思いによる霊的存在であることが確認されたため、次の位へと上げた。
「さて。鈴蘭の影、わたしは君の話がしたい」
鈴蘭の背後に立つ影が夏喜へと近づく。ゆっくりとではあるが、草を均す足取りは、影が具象化されていることがわかる。本来なら質量を持たないはずの影だが、鈴蘭を介さずとも現実に干渉するだけの状態へと変わっている。その影が、夏喜へと近づく。
「――」
ゴモゴモとした音にならない声。影の喉が震わせるのは空気ではなく、結界内を満たす魔力の層であり、およそ人には聞き取れない音ではあるが、この場にいる鈴蘭以外には、明確に聞き取れていた。
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