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「ンフフフ。理解したかね納得したかね、『名もなき男』。君の命魂は、この蝋燭の陽炎ほどなのだよ。んー? わからないかな? 理解し難いかな? 同感しかねるかな? 人の夢ほど儚く淡く、それでいて美しいものだよ。なー、そうは思わないかね、『名もなき男』?」
ドクターKの言葉を理解することは到底困難であるが、偽ローワンはそれを黙って聞き入った。彼の今の状況としては、固く閉ざされた地下牢から脱出できるのであれば何だっていい。命さえ残ればと、ただ切に願っている。
「そうだ。忘れていたよ盲点失念だ。君が取り逃がした少年だが、ンフフフ、いや、言うまい。君には言うまい。この身からは、これ以上は野暮だよなぁ。そう思わないかね?」
「あ、ああ。そうだね、ドクター。……それで、君は私を――」
「シィ……」
再び言葉を遮られる。偽ローワンには、ドクターKという人物が理解できない。
シルクハットを被ったペストマスクの怪人。痩せこけた肌だが、なぜか女のような艶があり、ペストマスク越しに聞こえる声は多重に認識される声質へと変化している。ロボトミーを生業とする闇医者であり、霊体手術の類を極め、麻酔なしで生きた人間の身体を弄ぶサイコパス。その怪人は、未だ地下牢の前へと姿を現さない。
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