Paragraph 0/名もなき祈り/Nameless

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「君には、そうだな。ンフフフフ。――用無しだ」 「なっ……」 「用無しだよ、『名もなき男』。君の失態は、君を匿っていたこの身だけでない、この身が崇拝してやまないあのお方を困惑失念残念がらせた。この罪は、君の命ですら賄えないほどだよ、ンフフフフ」  チクリと――偽ローワンの首筋にわずかな痛みが発生した。蜂や薔薇の棘の様な痛みに思わず手で押さえ、手のひらに感じた謎の感触を確かめるために恐る恐る視線を移すと――赤く、粘り気のある液体が偽ローワンの手のひらを汚していた。 「ンフフフ。触れたな、潰したな、――殺したな、『名もなき男』。ンフフフ。実に、いや実に君は惜しい男だよ、実に、愚かで鈍い男だよ、ンフフフフフフフフ」 「なんだ、……視界が、赤い――」  暗い地下牢から見える風景が、次第に赤く染まっていく。上から流れるように、次第に濃くなっていく赤色と、肌に感じる生温かさ、そして、こみ上げてくる罪悪感と絶望感、それを上回るほどの圧迫感は、彼の胸から広がっていた。
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