Paragraph 0/夏喜という女/The Witch

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Paragraph 0/夏喜という女/The Witch

 スノードン山での悪魔祓いを終えて半日後。曇天が夕刻の空に広がり、異国の夜は冷えるのが早い。  倉山夏喜は現実世界と隔絶された結界を解き、救出され暗示で深い眠りについている子供を抱えたジューダスとともに麓から離れた場所にある小さな教会へと到着していた。  人里からも少し離れた場所に位置する教会は、石造りの立派な広場とは裏腹に建物自体は年季が入り、窓ガラスにはヒビが多く見られる。建物内から光もこぼれず、仄暗く不気味とすら感じる。 「おお、ミズ・クラヤマ。ご無事で何よりです」  夏喜たちが教会の石畳を進むと、木製の扉が開いてにこやかに笑う牧師――ローワンが出迎えた。  黒の長衣と白のタイのジュネーヴ・ガウンと呼ばれる祭服を着こなし首には十字架を垂らしており、どうぞこちらへとジェスチャーをしているが、扉の前まで進んだ夏喜の足が止まる。
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