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吾郎が倒したのは金熊らしい
吾朗が正拳突き一発で倒した熊をゲシゲシと蹴りまくる若い女性たち。
そのうちの1人が吾朗のほうを向いて近寄ってきた。
「お兄さん。助けてくれてありがとうございます」
「いえ、これくらい」
「強いんですね」
「そうですか?」
「ぜんぜん動きが見えませんでした」
「そうなの?」
「はい。あっ!」
「え?」
「もしかして、山で修行とかしている勇者様?」
「まあ、そんな感じですかね」
「やっぱり! こんな熊くらいでは聖剣は使わないんですね」
(勇者ときて、せいけん。聖なる剣の事かな?)
「まあ、こんな雑魚なら聖剣なんて。軽く正拳突きで楽勝ですよ」
「ふふっ、面白いです。聖剣と正拳突きをかけたんですね」
(あ、ウケた)
「まあ、はい」
「勇者様は勇者様なのに気さくな方なんですね」
(異世界の勇者は気難しくて怖いのかな?)
「そうです。俺は新時代の勇者を目指してますので」
「素敵です~。私もそんな新時代の勇者様に突かれてみたいです~」
クネクネと腰を振る若い女性。
(つかれたい? 憑かれたいとは違うよな。 俺のアレで突かれたいのか?)
「まあ、そんな機会があれば」
「やったー! 約束ですよ、勇者様」
「あ、はい」
(俺にも、やっとモテ期が来たのか?)
熊をゲシゲシ蹴っていた残りの女性たちも吾朗に近寄ってきた。
「エミー、何を話してたの?」
「内緒だよ」
「ふーん。あ、そうだ。お兄さん、ありがとうございました」
「ありがとうございます」
吾朗に頭を下げる女性たち。
「いえいえ」
「あの熊、もらっても良いですか?」
「え?」
「ユミー、ダメだよ」
「アミー、だって」
「君たち、あの熊を食べるの?」
「え? 熊はあんまり美味しくないですよ」
「まあ、だよね」
(日本でも、熊肉が美味しいとかって聞かないしな)
「毛皮を剥いだら高く売れますから」
「あ、そっちね」
「はい」
「もう、ユミー。あの熊はお兄さんのだよ」
「毛皮を売ったお金は何に使うのかな」
「お母さんに渡します」
「なるほど。それは偉いね」
「えへへ」
「もしかして、君たちは三つ子かな?」
「そうですよ」
(こんな山の中に若い女性だけで入ってきて、何かを採って稼ごうとしてたのかな? もしかして、お金に困ってる?)
「熊はあげるけど、毛皮は自分たちで剥げるの?」
「良いんですか!」
「うん」
「はい、剥げます」
「あ」
(剥げますって言われたら、ついつい頭が気になるんだよね)
ついつい頭を触ってカツラが取れてないか確かめた吾郎。
(良かった。カツラは取れてない)
「勇者様、頭がどうかしました?」
「あ、いや、別に」
「えっ! お兄さんは勇者様なんですか?」
「そうらしいよ」
「まあ、そうだね」
「だから、金熊を軽く殺せるくらいに強いんですね」
「きん熊?」
「金熊を見るのは初めてですか?」
「たぶん」
(きん熊って金熊かな? そう言われたら、あの熊は少し金色っぽいな)
「蜂蜜が好きな熊なので、金色っぽいんですよ」
「蜂蜜が好きなのに、人を襲って食べるの?」
「人間は食べませんよ。殺して楽しんでいるだけですね」
「なるほど。じゃあ、君たちは蜂蜜を取りに来てたの?」
「いえ、こんな山の中に蜂蜜の巣箱はないですし、野生の蜜蜂の巣は金熊が狙っているので」
「そうなんです。野生の蜜蜂の蜜を採ってる人間を見た金熊は狂ったように襲ってくるんですよ」
「へー。そこまで金熊は蜂蜜命なんだね」
「そうですね」
「私たちは薬草を取りに来たんです」
「あ、薬草ね」
「はい」
「薬草は売るの?」
「そうです」
(そうか。お母さんかお父さんが病気かと思った)
「でも、こんな熊がいる山に入ったら危ないよ」
「今日はうっかりと動物除けの御札を忘れたんですよ」
「そうなんです。ユミーが持ったと思って」
「私はアミーが持ってると思ってたよ」
「私はエミーが持ってるとばっかり」
(なるほど。どっちかが動物除けの御札を持ってると思って確認しなかったんだな。しかし、動物除けの御札ってどんなの?)
カツラにも魔法用があったから、魔法的なものなのかと思った吾郎。
「それは、今度からは気をつけないとね」
「はい」
「気をつけます」
「本当に死ぬかと思いました」
「そうだね」
「あの、勇者様」
「ん?」
「金熊の毛皮を剥ぐ間、他の動物が来ないか見張っててもらえませんか?」
「良いよ」
「ありがとうございます」
「いやいや」
「あとでお礼はしますので」
「別にいいよ」
「いえ、させてください」
「まあ、そこまで言うなら無理しない程度で」
「はい」
三つ子の三姉妹たちは金熊の毛皮を剥ぎ始めた。
毛皮剥ぎなんか見たことはない吾郎だが、そんな吾郎から見ても上手に見える。
「みんな、上手いね」
「これくらい出来ないと、山里では生きていけませんから」
「罠にかかった動物を、みんなで交代で解体したりするんです」
「もう、慣れたよね」
「うん」
「なるほどね」
山里に住む女性たちは逞しいんだな。と思う吾郎。
金熊は毛皮を剥ぎ取られ丸裸になった。
「穴に埋めなくていいかな?」
「山の中だし、このままで良いですよ」
「でも、勇者様はこの辺で修行をしてるんですよね?」
「あ、そうだね」
(そんな設定だったね)
「ここに、こんな死体があると腐って臭いですね」
「君たちが心配だから、一緒に山を下りるよ」
「良いんですか?」
「うん。途中で君たちが動物に襲われたらとか、気になるだろうし」
「「「ありがとうございます」」」
「うん」
そうして、三つ子の三姉妹と一緒に山を下りる吾郎だった。
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