お義父さんを訪ねて30キロ

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お義父さんを訪ねて30キロ

近くの町まで30キロ。歩いて行くので途中にコンビニとかあれば良いのにねと思った吾郎。 「途中で峠の食堂みたいな店は無いですか?」 「無いですね」 「近くの町まで何もない?」 「何も無くはないですけど、お店はありません」 (もうお昼頃だよな? お腹が空いたぞ) 「この辺で昼食にしませんか?」 「そうですね」 木陰で休憩をすることにした吾郎たち。 昼食は、三姉妹の母親が握った塩むすび。 (普通に美味しいお米があるんだよな。でも、おかずが欲しいかも) 「トムー、カバン」 「ははっ」 サッとカバンを吾郎に渡すトムー。 カバンを開けた吾郎は「卵焼きと唐揚げ、6人分」とお願いしてからカバンに手を入れ、プラ容器に入った卵焼きと唐揚げをカバンから出して、みんなに配った。 「あ、すごく美味しいです」 「塩むすびに合いますね」 「塩むすびが10個はいけます」 「そんなに無いわよ」 「勇者様、お代わりは?」 「何人分?」 「5人分は?」 「良いけど」 「ありがとうございます」 トムーは塩むすび5個と卵焼き唐揚げセットの6人分を食べた。 「こんなに美味しいものを腹いっぱい食べれるとは。勇者様の従者になって正解でした」 「それは良かったね」 「はい」 (燃費の悪い従者だな、こいつ) 休憩をはさみながら近くの町に到着した吾郎たち。町も簡単な柵で囲まれているらしく、等間隔で動物除けの御札が貼られている。 (動物除けの御札って、どんな仕組みなんだろ。魔法かな) 町の中へはフリーパスで入ることができた。犯罪者は天罰により10倍返しの上に雷が落とされるらしいから、犯罪者はめったに現れないらしい。 聞いた話ではパンを1つ盗んだ程度で、目をくり抜かれるくらいの痛みを感じる雷が頭に落ちるんだとか。 (パンを万引きで目をくり抜かれる痛みって、そんなのを1回でも経験したら二度と犯罪はしないかもな) 三姉妹の父親は建設工事会社に住み込みで働いているそうだ。 建設工事会社へ行って挨拶をすると、「トミーさん、今日は腰が痛いそうで休みですよ」と言われた。 「お義父さん、ぎっくり腰ですかね?」 「そんなにヤワな身体はしてないと思うんですけど」 教えてもらった社員寮へ行って、部屋のドアをノックする。 「留守ですかね?」 「どうですかね」 「トミー、いないのか!?」 でかい声を出してドアをドンドンと叩くトムー。 「兄貴かよ。何の用だ?」 ドアの向こうから声がした。 「いたのか。開けてくれ」 「腰が痛くて寝てるんだよ。悪いけど要件だけ言ってくれないか」 「いいから、開けてくれ」 ドッキリさせる為に、トミー以外は声を出さないようにしている。 「だから、今日は無理だ」 「ドアを開けるくらいできるだろ」 「悪いけど、要件だけを言って帰ってくれ」 「お前、なんか変だぞ」 「いや、別に変じゃないぞ」 「何か怪しいわね」 「え?」 小さな声で話す三姉妹の母親。 「中で浮気してるんじゃ」 「あ、なるほど」 「あいつ、仕事をサボって浮気してるのか?」 「女の勘ね」 「なるほど」 「お父さん、最低ね」 「幻滅だわ」 「天罰が落ちたら良いのにね」 (これ、本当にお義父さんが浮気をしてたらお義父さんの人生は終わりそうだな) 「兄貴、他に誰かいるのか?」 「5人な」 「は?」 「勇者様、このドアを聖剣で斬ってくれますか?」 「それ、俺に天罰が落ちない?」 「勇者様には落ちません」 「本当に?」 「はい」 「聖剣を出すのは面倒だから、手でドアを壊しても?」 「大丈夫です」 (勇者には天罰免除システムとか有るのか?) ベキベキとドアを壊した吾郎。 「お、おい! 兄貴、何をやってるんだ! 天罰が落ちるぞ!」 「いや、兄貴じゃないです」 「……あんた、誰だ?」 「通りすがりの勇者です。お義父さん、初めまして」 「え?」 「お邪魔するわよ」 「は!?」 妻の顔を見てビックリするお義父さん。 (うん。ドッキリ大成功だな。お義父さんは部屋で性交してたんだろうけど) ズカズカと部屋へ入るお義母さん。 玄関には女物の靴がある。 (この女物の靴がある時点でお義父さんはクロだな) 服を着ている途中の女を発見したお義母さん。 「あんた、何をしているの?」 「えっと……訪問販売です」 「身体を売る訪問販売かしら」 「……」 「まあ、いいわ」 お義父さんのほうを見たお義母さん。 「この町へ出稼ぎに出たのは家族の為じゃなくて、あの女のため?」 「いや、それは」 「離婚します」 「あ、いや、ちょっと待ってくれ」 「何を待つの?」 「これには海より深い事情があってだな」 「簡潔に短く説明して」 「いや、それがな、これは国家秘密なんだ」 「そうですか。あなたがそんな大きな仕事をしているとは知りませんでした。私は妻失格ですね」 「あ、いや、それは……」 「勇者様、私達の離婚を認めてください」 「俺が?」 「勇者様が認めたら離婚が成立しますので」 「なるほど」 (勇者権限みたいなのが有るのかな?」 「お二人の離婚を認めます」 「ありがとうございます」 「いえ」 「じゃあ、さようなら」 「あ、おい」 「さようなら」 「最低ね」 「あー、嫌だ嫌だ」 「お、おい、お前たち」 「俺もお前とは絶縁だ。二度と兄貴と呼ぶなよ」 「……」 そうして部屋を出た吾郎たち。   「お義母さん、これからどうするんですか?」 「実家に帰ります」 「実家はどこですか?」 「この町から少し離れたところに村があるんです。そこです」 「じゃあ、その村へ行きますか」 「はい」 (まさか、お義父さんと初めて会った日に、お義父さんが他人になるとは思わなかったな)
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