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この国の名は
お義父さんの浮気中にお宅訪問してしまった吾郎たち。お義母さんは静かにブチ切れて離婚をしてしまった。
お義母さんは実家に出戻りとなったが、3億円を持って帰ったので大歓迎で迎えられた。
吾郎たちは町へ戻って宿に泊まることにした。お義母さんの親戚たちが集まって色々と聞かれたりするのは面倒だと思ったから。
遅い夕食を済ませ、お風呂も入って寝る時間になった。
「勇者様、弟が御迷惑をおかけしました」
吾郎に頭を下げるトムー。
「いや、別に迷惑でもないけどね」
(お義父さんとは出会った日に、さようならしたもんな)
「ゴロー様は、どうして山で修行していたのか覚えてますか?」
嫁のユミーに聞かれた。
(山にいたのは異世界転移したからだと思うけど)
「それはだね。この世の悪を倒して弱き人を助け、俺の正義を貫きたいからだね」
「キャー! 素敵です!」
「ゴロー様、格好いいです!」
「今すぐ抱いて!」
「あ、うん」
「勇者様、それは素晴らしいお考えです。私は隅で腹筋をしてますので」
「うん」
(ちょっと格好つけすぎたかな?)
みんなが寝静まり、吾郎は1人で考えていた。
吾郎は元々あまり物事を深く考えない。「まあ、何とかなるだろ」タイプなのだ。そうでなければ高校を卒業してから25年も売れない役者なんかやってられないのだ。
(異世界転生とか異世界転移とかのドラマに出たこともあるから、そんな小説とか読んで勉強したけど、たぶんこれまでの流れからして、俺はこの世界で最強なんだろうな)
おそらく、自分がこの世界の主人公になったんだろうと推理する吾郎。
(俺が勇者だとしたら、魔王を倒したりダンジョンで冒険したりするのか? 勇者と言えばパーティーだけど、嫁が3人とおっさん1人が従者になった。これって勇者パーティーなのだろうか?)
この世界の事を少しは詳しく知ったほうがいいかも。と思いながら吾郎は眠りにつくのだった。
翌日の朝、宿で朝食を食べながらおっさんに質問をする吾郎。嫁の三姉妹たちは「これ、美味しいねー」とか言いながら仲良く食べている。
「あのさ、ダンジョンって知ってる?」
「ダンジョン、ですか?」
「うん」
「美味しそうな感じですね」
「え?」
「食べ物ですよね?」
「違うけど」
「食べながらの質問だったので、食べ物かと」
「いや、食べ物じゃない」
「そうですか」
(なるほど。ダンジョンは無いのね)
「じゃあさ、魔王とかいる?」
「魔法を教えてくれるんですか?」
「いや、魔王」
「魔法?」
「魔族とかの親玉」
「何ですか、それ」
「いや、知らないなら良いんだ」
「はい」
(魔族や魔王も居ないのか)
「それなら、勇者は何をやるんだ?」
「この国で1番偉い勇者様は将軍様で、あとは藩主様とかやりますけど」
「将軍様?」
「はい」
(なるほど。勇者が国や地方を治めているんだな)
「この国の名は?」
「日の国です」
「どんな文字?」
「こんな」
指で日の国と文字をなぞるトムー。
「日の国か」
「はい」
「ここは何藩?」
「伊達藩です」
カバンから紙と鉛筆を出す吾郎。
「こんな文字?」
「そうですね」
(伊達藩って、東北の伊達藩か? しかし、このおっさん、以外と色んな事を知っているよな)
「トムーは意外と物知りみたいだけど、どこかで勉強してたのか?」
「意外かは分かりませんが、親父が里で寺子屋をしてますから」
「なるほど」
(寺子屋か。ほとんど江戸時代みたいだな)
「それなら、勇者はみんなお役人になるのか?」
「ならない勇者様もいますよ」
「そんな勇者は何をしてるんだ?」
「ゴロー様みたいに全国を武者修行したり、会社を経営とか悪い事をしたりとか」
「ん?」
「何か?」
「悪い事をしたりとか?」
「はい。悪事を働く勇者様もたまにいます」
「天罰は?」
「よっぽどの悪事で無ければ勇者様に天罰は落ちませんよ」
「なるほど」
(やはり、勇者には天罰免除みたいなのが有るんだな)
「勇者って、産まれつきで勇者なのか?」
「そうですね。親が勇者様なら子供も勇者様として産まれやすいです」
「勇者の子供がすべて勇者では無いのか」
「はい」
「でも、どうやって子供が勇者だと分かるんだ?」
「人間離れした力とか、聖剣や聖なる盾を持てるとかですね。あとは、悪さをしても天罰が落ちないとか」
「なるほどね」
「ゴロー様も将軍様を目指しますか?」
「俺でも成れるのか?」
「勇者様なので」
「どうやって?」
「まずは町のお役人になってから出世して藩主様になり、4年に一度の将軍選抜大会で優勝すれば将軍様です」
「オリンピックかよ」
「え?」
「いや、何でもない」
「そうですか」
(総理大臣を選ぶ総裁選みたいな感じだろうけど、4年に一度の将軍選抜大会って何をやるんだ?)
「その将軍選抜大会って、じゃんけんか?」
「じゃんけん?」
「じゃんけん、知らない?」
「じゃん拳と言う格闘技ですか?」
「格闘技じゃない」
「将軍選抜大会は、格闘技、剣術、魔法の3回勝負で先に2勝したほうが勝ちです」
「あ、ガチで闘うのね」
「闘いますね」
「それなら、馬鹿でも強ければ将軍になってしまうな」
「人間として馬鹿かどうかは置いといて、お役人になる試験には合格してるので頭はそれなりですよ」
「あ、なるほど」
(お役人になるには試験があるのか。面倒だから俺はやめておこう)
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