藩都へ行く吾郎たち

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藩都へ行く吾郎たち

吾郎の嫁の三姉妹たちは一卵性の三つ子なので、顔も体型も声さえもよく似ていて見分けがつきにくい。 服の色で見抜こうと思いながらピンク、黄色、白のくノ一衣装をプレゼントしたのだが、誰にどの色を渡したのかも忘れてしまった吾郎。 (名札を付けないと分からないけど、嫁に名札を付ける奴はいないだろうな) 名札識別計画はやめる事にした。 (まあ、いつも3人とも一緒にいるし、名前を呼んだら誰かは返事するからな) 嫁たちの区別を覚えるのを吾郎は早々に諦めた。 「トムー、伊達藩で1番大きな町は?」 「伊達市ですね」 (市町村の市かな?) 「その伊達市には何人住んでる?」 「確か、30万人くらいかと」 「伊達藩全体は」 「100万人くらいですかね」 「日の国では伊達藩は大きい?」 「土地は広いです」 「土地は?」 「今の藩主が前回の将軍選抜大会で43位でしたので、国からのお金が少なくて貧乏な藩です」 「将軍選抜大会の結果で国家予算の分配が違うのか」 「そうですね」 「今の将軍の藩は?」 「薩摩藩です」 「なるほど。薩摩の勇者は強そうだよな」 「どの藩主様も勇者様なので、そんなには能力に違いはないですよ」 「え?」 「格闘技、剣術、魔法で闘う順番は抽選で決まるので、得意なのを第1試合にやった勇者様が有利になるだけです」 「あ、そうか」 「はい」 (格闘技が1番得意な勇者Aと、格闘技が1番不得意な勇者Bが闘うとして、第1試合で格闘技ならAがBをボコボコにできるもんな) 「だとすると、運も……運が1番か」 「準々決勝からはパーティーメンバーの力も重要ですけどね」 「え?」 「準々決勝からは団体戦なんです」 「何人?」 「5人です」 「パーティーメンバーもすべて勇者?」 「いえ、勇者は藩主様だけです」 「なるほどね」 (まあ、俺は将軍や藩主とかになろうとも思わないし、関係ない話だな) 「ゴロー様、トムーおじさんとの話は終わりました?」 「あ、うん」 「私たちは伊達市に住みたいです」 「え?」 「この町だと、あの裏切り男に会うかも」 「裏切り男……ああ」 「会いたくないです」 「そうだね。なら、伊達市に住もうか」 「ありがとうございます」 (確かに、この町でお義父さんとばったり会っても気まずいもんな) 吾郎たちは伊達藩の藩都である伊達市へと出発することになった。 ・・・・・ 伊達市へ到着した吾郎たち。 トムーはちょっとした有名人だった。 「トムーが5大会連続で腕相撲1位とは知らなかったぞ」 「伊達藩で1位ですので。それに、勇者様は出ないので大した事はないです」 「全国大会は?」 「そんなのは有りません」 「伊達藩だけの大会なのか?」 「はい」 トムーは4年に一度、伊達市で開催の腕相撲大会で5大会連続1位の伝説的存在らしいのだ。勇者は出ない大会らしいが。 女性にもモテたらしいが、基本的に筋肉以外には興味がないトムーは女に目向きもしなかったらしい。 「ねえ、ゴロー様」 「ん?」 「結納金で3億円をお母さんに渡したけど、まだお金は大丈夫?」 「余裕だね(たぶん)」 「家は買えますか?」 「家か」 (仕組みは分からないけど、お金はカバンからいくらでも出る感じだしな) 「買えません?」 「君たちが好きな家を買っていいよ」 「私たちが選んで良いんですか?」 「いいよ」 「ありがとうございます!」 「やったー!」 「とっても嬉しいです!」 好きな家を買っていいと言われて、大いにはしゃぐ三姉妹。 (買うのはいいけど、不動産屋とか有るのか?) 「トムー、家ってどこで買うんだ?」 「基本的に建設工事会社ですね」 「なるほど」 「良ければ、知り合いの社長を紹介しますが」 「知り合いがいるなら、それは助かる」 「では、ご案内します」 「うん」 (こいつ、意外と使えるんだよな。従者にして正解だったかもしれない) トムーに案内されたのは、腕白建設という名の建設会社だった。看板に「代表 勇者ワンダー」と書かれている。 (代表は勇者なんだな。しかし、腕白(わんぱく)建設……微妙な名前の会社だ) 「社長はいるかな?」 「はい。あ、トムーさんですよね?」 「ああ」 「お待ち下さい」 社長を呼びに行ったらしい受付のお姉さん。 少しして、身長は2メートルくらいでトムー並の筋肉ムキムキプロレスラーみたいなおっさんが奥から出てきた。 (デカいな。トムーの筋肉ムキムキ仲間なのか?) 「おう、トムーじゃねえか」 「社長、お久しぶりです」 「おう、1年ぶりか。で、何の用だ?」 「家を買いに」 「お前がか?」 「いえ、こちらのゴロー様です」 「ゴロー様? お前がそう呼ぶなら、そいつも勇者か?」 「はい」 「知らん顔だな」 「全国を武者修行していたそうです」 「なるほど。で、予算は?」 「ゴロー様?」 「嫁たちが気に入った家なら買うよ」 「上限は無しですか?」 「流石に100億とかはヤバいかもしれないが」 「ゴロー様でも100億はヤバいですね」 「そうだよな」 「はい。流石に」 「おいおい、流石に100億の家なんて扱ってねえぞ」 「では、適当な物件を紹介してください」 「その前にだ。お前、本当に勇者か?」 「まあ、いちおうは」 (勇者だとの確証は無いけど、異世界転移した流れ的に俺は勇者なんだろう。たぶん) 「お前みたいな、背が低くてひょろっとした勇者なんか見たことが無いがな」 「社長、ゴロー様は俺より力が強いです」 「は? お前より?」 「はい」 「お前は力だけなら俺と互角だぞ。それより強いってか?」 「はい」 「その身体でトムーより怪力か。なら、間違いなく勇者だな」 「はい」 「よし、物件を案内してやる」 「お願いします」 (しかし、今の話からすると俺みたいな身長175センチで細め体型の勇者って居ないのか? 勇者は基本的にデカくて筋肉ムキムキだとすると、勇者が集まる集会とか……想像するだけで暑苦しいぞ)と思う吾郎だった。
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