14人が本棚に入れています
本棚に追加
藩都へ行く吾郎たち
吾郎の嫁の三姉妹たちは一卵性の三つ子なので、顔も体型も声さえもよく似ていて見分けがつきにくい。
服の色で見抜こうと思いながらピンク、黄色、白のくノ一衣装をプレゼントしたのだが、誰にどの色を渡したのかも忘れてしまった吾郎。
(名札を付けないと分からないけど、嫁に名札を付ける奴はいないだろうな)
名札識別計画はやめる事にした。
(まあ、いつも3人とも一緒にいるし、名前を呼んだら誰かは返事するからな)
嫁たちの区別を覚えるのを吾郎は早々に諦めた。
「トムー、伊達藩で1番大きな町は?」
「伊達市ですね」
(市町村の市かな?)
「その伊達市には何人住んでる?」
「確か、30万人くらいかと」
「伊達藩全体は」
「100万人くらいですかね」
「日の国では伊達藩は大きい?」
「土地は広いです」
「土地は?」
「今の藩主が前回の将軍選抜大会で43位でしたので、国からのお金が少なくて貧乏な藩です」
「将軍選抜大会の結果で国家予算の分配が違うのか」
「そうですね」
「今の将軍の藩は?」
「薩摩藩です」
「なるほど。薩摩の勇者は強そうだよな」
「どの藩主様も勇者様なので、そんなには能力に違いはないですよ」
「え?」
「格闘技、剣術、魔法で闘う順番は抽選で決まるので、得意なのを第1試合にやった勇者様が有利になるだけです」
「あ、そうか」
「はい」
(格闘技が1番得意な勇者Aと、格闘技が1番不得意な勇者Bが闘うとして、第1試合で格闘技ならAがBをボコボコにできるもんな)
「だとすると、運も……運が1番か」
「準々決勝からはパーティーメンバーの力も重要ですけどね」
「え?」
「準々決勝からは団体戦なんです」
「何人?」
「5人です」
「パーティーメンバーもすべて勇者?」
「いえ、勇者は藩主様だけです」
「なるほどね」
(まあ、俺は将軍や藩主とかになろうとも思わないし、関係ない話だな)
「ゴロー様、トムーおじさんとの話は終わりました?」
「あ、うん」
「私たちは伊達市に住みたいです」
「え?」
「この町だと、あの裏切り男に会うかも」
「裏切り男……ああ」
「会いたくないです」
「そうだね。なら、伊達市に住もうか」
「ありがとうございます」
(確かに、この町でお義父さんとばったり会っても気まずいもんな)
吾郎たちは伊達藩の藩都である伊達市へと出発することになった。
・・・・・
伊達市へ到着した吾郎たち。
トムーはちょっとした有名人だった。
「トムーが5大会連続で腕相撲1位とは知らなかったぞ」
「伊達藩で1位ですので。それに、勇者様は出ないので大した事はないです」
「全国大会は?」
「そんなのは有りません」
「伊達藩だけの大会なのか?」
「はい」
トムーは4年に一度、伊達市で開催の腕相撲大会で5大会連続1位の伝説的存在らしいのだ。勇者は出ない大会らしいが。
女性にもモテたらしいが、基本的に筋肉以外には興味がないトムーは女に目向きもしなかったらしい。
「ねえ、ゴロー様」
「ん?」
「結納金で3億円をお母さんに渡したけど、まだお金は大丈夫?」
「余裕だね(たぶん)」
「家は買えますか?」
「家か」
(仕組みは分からないけど、お金はカバンからいくらでも出る感じだしな)
「買えません?」
「君たちが好きな家を買っていいよ」
「私たちが選んで良いんですか?」
「いいよ」
「ありがとうございます!」
「やったー!」
「とっても嬉しいです!」
好きな家を買っていいと言われて、大いにはしゃぐ三姉妹。
(買うのはいいけど、不動産屋とか有るのか?)
「トムー、家ってどこで買うんだ?」
「基本的に建設工事会社ですね」
「なるほど」
「良ければ、知り合いの社長を紹介しますが」
「知り合いがいるなら、それは助かる」
「では、ご案内します」
「うん」
(こいつ、意外と使えるんだよな。従者にして正解だったかもしれない)
トムーに案内されたのは、腕白建設という名の建設会社だった。看板に「代表 勇者ワンダー」と書かれている。
(代表は勇者なんだな。しかし、腕白建設……微妙な名前の会社だ)
「社長はいるかな?」
「はい。あ、トムーさんですよね?」
「ああ」
「お待ち下さい」
社長を呼びに行ったらしい受付のお姉さん。
少しして、身長は2メートルくらいでトムー並の筋肉ムキムキプロレスラーみたいなおっさんが奥から出てきた。
(デカいな。トムーの筋肉ムキムキ仲間なのか?)
「おう、トムーじゃねえか」
「社長、お久しぶりです」
「おう、1年ぶりか。で、何の用だ?」
「家を買いに」
「お前がか?」
「いえ、こちらのゴロー様です」
「ゴロー様? お前がそう呼ぶなら、そいつも勇者か?」
「はい」
「知らん顔だな」
「全国を武者修行していたそうです」
「なるほど。で、予算は?」
「ゴロー様?」
「嫁たちが気に入った家なら買うよ」
「上限は無しですか?」
「流石に100億とかはヤバいかもしれないが」
「ゴロー様でも100億はヤバいですね」
「そうだよな」
「はい。流石に」
「おいおい、流石に100億の家なんて扱ってねえぞ」
「では、適当な物件を紹介してください」
「その前にだ。お前、本当に勇者か?」
「まあ、いちおうは」
(勇者だとの確証は無いけど、異世界転移した流れ的に俺は勇者なんだろう。たぶん)
「お前みたいな、背が低くてひょろっとした勇者なんか見たことが無いがな」
「社長、ゴロー様は俺より力が強いです」
「は? お前より?」
「はい」
「お前は力だけなら俺と互角だぞ。それより強いってか?」
「はい」
「その身体でトムーより怪力か。なら、間違いなく勇者だな」
「はい」
「よし、物件を案内してやる」
「お願いします」
(しかし、今の話からすると俺みたいな身長175センチで細め体型の勇者って居ないのか? 勇者は基本的にデカくて筋肉ムキムキだとすると、勇者が集まる集会とか……想像するだけで暑苦しいぞ)と思う吾郎だった。
最初のコメントを投稿しよう!