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メニューは結局ビーフシチューにした。
これなら食べずに待っていても、「煮込むのに時間が掛かったから」という言い訳も立つ。ポトフは作るたびに、事実とはいえ「簡単だ、すぐできる」と口にしてしまっているので今日は避けたのだ。
煮込みに入れば付ききりで見張る必要はない。自然と考えるのは、東京へ向かう新幹線の中に居るだろう彼のこと。
今はどのあたりを走っているのか。どちらにしても、あの恋人は車窓の景色をのんびり眺めたりはしそうにもないのだが。
南条との通話を終えて、買って来てあったバゲットをスライスする。シチューはもう出来上がっているので、もう一度火を入れて温め直せばいい。簡単なサラダも冷蔵庫の中。
恋人を待つ。
ただそれだけのことが嬉しいなんて、瑞貴は知らなかった。教えてくれたのは南条だ。
瑞貴が欲しかった『愛』を、惜しみなく与えてくれるひと。
先ほどの電話から計算すれば、彼はもう最寄り駅からこの部屋への道を辿っている頃か。
「サラダ、出しとこうかな」
冷蔵庫に目をやって独り言を零したその時、部屋のチャイムが鳴って待ち人の帰宅を知らせた。
~END~
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