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「今、どこにいますか」
「今、どこにいますか」
妻から送られてきた定型文にはもう見慣れてきた。
「今日の天気はいつもより暗く、今にも雨が降りそうです。あなたのところの天気はどうですか」
『今日も快晴だよ。雲ひとつも出ていない』
彼女の言葉に俺も答える。
「今日は、絵梨花が友達を連れて家で遊んでいました。可愛らしい笑い声が家の中に響いていましたよ」
俺も今日、その姿を見ることができた。一時期、遊ぶことなど忘れたかのように静まり返っていた家が、活気を取り戻したようだった。
「あなたと一緒に見ることができたら良かったのに……」
最近、一人で落ち込んでいることの多い妻を慰めることができるのならどれほど嬉しいか。俺には近くにいてやる事しかできない。
「……あなたに謝りたいことがあるの」
「私、再婚しようと思います。相手はあなたの同僚の福山君です」
何も用事がないのに福山が私の家に来るから、まあ、何かあるのだろうとは思っていたがそういうことか。
「……許してくれますか」
俺は、別に反対はしない。
今日という日まで君が待ち続けてくれたことだけで、俺は幸せだった。
「あなたが行方不明になって、もう5年経ちました。ようやく忘れられそうな気がします。でも、初めての経験はあなただけのものです。今まで、ありがとうございました」
その言葉を目にした途端、体が眩い光に包まれた気がした。足元から頭にかけてゆっくりと分解されていく。
『俺も、君には感謝しかないよ』
その言葉を発した時、妻の顔は笑顔になった気がした。
俺の新しい人生は、今始まろうとしている。
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