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ねぇ、麻弘
「今、どこにいますか? お母さんは、まだ、麻弘の傍には行けませんか?」
川村真由美は、夜に一人になった時間、布団の中でぽつりと呟いた。
夢で逢えたら……と祈りながら、真由美は、そっと瞼を閉じた。
「あのね、お母さん。神様は、僕のような性格の人を欲しがっているんだよ」
麻弘は、笑顔で言うけれど、そんな事はないと真由美は、笑って聞き流そうとした。
「あら、それは大変。麻弘は大学三年で、就活か大学院に進むか決める大事な時に、おかしな事言わないの。進路は決まったの?」
真由美は、夢見のような事を言ってきた麻弘に、現実の話をしてみる。
「もちろん、考えているよ。だけどね……」
麻弘が、何かを言いかけた場面で真由美は目を覚ました。
「夢か……。本当に、今、どこにいるんだろう?」
夢がリアル過ぎたから、頭では亡くなった事はわかっているつもりでも、心はそれを受け入れるには時間が、いくらあっても足りない。
もしも、あの日、麻弘が友人数人と海に遊びに行ってなければ……。
今は、きっと、ごく普通の家庭でも持って幸せに暮らしていただろうか。
倍率の高い大学に一発合格した事が、真由美は誰より自慢だった。
仏間には、自分たちより先に逝ってしまった麻弘の位牌と写真を飾ってあるから、亡くなった事は事実だ。
「麻弘、帰りを待ってます」
鳴らないスマートフォンに、真由美は一人呟いた。
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