10人が本棚に入れています
本棚に追加
/3ページ
「今どこにいるの?」
夕方の峠道、ぼくは自転車をこぎながら、彼女にスマホで電話を(もちろん、ハンズフリー)かけた。
「峠を登ってるわ。あなたは?」
「ぼくも・・・自転車で」
峠には小さなトンネルがある。
もともと水道かガスのトンネルで、人が通るために作られたのではない。なぜなら、背の高い大人なら屈まなければ通れないほどの高さと、肘を擦ってしまうくらいの幅しかないから。
そして、こんなわびしい峠のトンネルのご多聞に洩れず、怪談話にも事欠かない。満月の夜に、犬が遠吠えするような不気味な音が響くんだ。だからここは犬鳴峠って呼ばれている。もっとも大人たちは、風がトンネルを通り抜ける音だって言うけど。
最初のコメントを投稿しよう!