ハウリング・パス

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「今どこにいるの?」  夕方の峠道、ぼくは自転車をこぎながら、彼女にスマホで電話を(もちろん、ハンズフリー)かけた。 「峠を登ってるわ。あなたは?」 「ぼくも・・・自転車で」  峠には小さなトンネルがある。  もともと水道かガスのトンネルで、人が通るために作られたのではない。なぜなら、背の高い大人なら屈まなければ通れないほどの高さと、肘を擦ってしまうくらいの幅しかないから。  そして、こんなわびしい峠のトンネルのご多聞に洩れず、怪談話にも事欠かない。満月の夜に、犬が遠吠えするような不気味な音が響くんだ。だからここは犬鳴峠(ハウリング・パス)って呼ばれている。もっとも大人たちは、風がトンネルを通り抜ける音だって言うけど。
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