湖上の孤独

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1 『今、どこにいますか?  現在の所在地、連絡されたし』  湖の傍にショッピングモールがあった。売場の片隅に貼り紙があり、行方不明者のリストが書かれている。その紙は、貼り出されてから既に数ヶ月は経っていて、黄色く変色していた。  ひとりの男が通りかかった。その男の名前もリストに載っていたが、もはやどうにもならなかった。  男はドラッグストアに入ると、大きなリュックサックにミネラルウォーターや保存食などをせっせと詰め込んだ。その傍にはこうもり傘が置いてある。ボタンで開く女性用の大きな傘で、黄色地に馬具がデザインされていた。男が背後の気配に振り向くと、視界の隅で何か大きな黒いものが動いた。男はパンパンに膨らんだリュックサックを背負うと、傘を抱えて出口へと急いだ。
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