湖上の孤独

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 数年が経過したとき、世界中の犬に徐々に異変が起こった。当初は、しつけられたはずの犬がコマンドに従わない、散歩中に他の犬や飼い主に吠えかかるなど、少々扱いにくくなった程度だった。そのうち、犬たちは唸り声を上げ、涎を垂らし、目を充血させ、徘徊するようになった。そして、ついに飼い主や近づく人を威嚇し、噛みついた。噛まれた人々は、高熱を出し、中枢神経を侵され、精神を錯乱し、ほぼ100%が死に至った。抗体依存性感染増強(ADE)が狂犬病の急激な感染拡大をもたらしたのだ。  もともと飼われていた数が膨大だったため、感染は世界中に広がり、パンデミックとなった。制御の効かなくなった犬は逃亡するか、飼い主が処分に困って捨てたことで野犬化し、次々に人々を襲った。それでも犬に対する愛着を忘れられない人々は、殺処分を躊躇した。そして感染は爆発的に拡大し、高い致死率により人類は急激にその数を減らしていった。街は廃墟となり、インフラは機能不全となった。通信も途絶え、生存者を確認することもできなくなっていた。
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