湖上の孤独

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3  湖のほぼ中央に、小屋が浮かんでいた。かつては、ボートやウインドサーフィンを楽しんだ客たちがひと休みし、軽食を食べ、紅茶を飲むための休憩所だった。男は小屋の傍でセイルを傾け、巧みにタックして方向を変えると、デッキにボードをぴたりと着けた。ボードを引き上げ、濡れたセイルが乾くようにマストを立てて、小屋の壁に固定した。  男がドアを開けて小屋に入ると、一匹の小さな犬がやって来た。 「やあ、ステラ!ただいま!」  男はリュックサックを下ろし、ドッグフードを取り出すとアルミの皿に入れた。犬はガツガツと食べた。小さな犬は、仔犬の頃からずっとこの浮き小屋で飼われていた。狂犬病の犬は水を恐れるため湖を渡って来ることはなかった。つまり、この犬だけは感染しなかったのだ。
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