シャンプーの指先

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冷えきったアスファルトの上をカラカラと転がる枯れ葉の音に紛れながら、ブーツのヒールの音を響かせ歩いている。 頭の中は外の空気が熱くなる程、沸々と煮え繰りかえっている。 「ホントに新入社員め!私の心を乱してくれて!」 今日は入社半年後のフォローアップ研修だった。 人事部育成部を任されて5年、年々ホスピタリティ意識が低下する新入社員に慣れたと思っていた。でもやっぱり駄目! 美容院の予約時間に間に合わせる為、ヒール音のリズムが早くなっている。まるで頭の沸点が上がるのと比例するかの様に…。 頭を下げるのが仕事、濃い目のブラウンに染めた髪がプリンの様なツートンになる前に、と言うのは表向き。混じりだした白いものを隠す為に半月に1回通っている美容院。そこが私の癒しの場になっている。 ビル風の冷たさから守る様にコートの衿を立てて頬を押さえ、2階にあるガラス張りの店を見上げると、いつもの女の子が私に気付きドアの向こうで待っていてくれている。 さっきとは違うヒールの音を響かせ軽やかに階段をかけ上がった。
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