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第二話 春風の少女
近年のグラン王国は新しい国王――エルンスト陛下の元に近代化が一気に進んだ。
その一つは王国の各地に鉄道網を張り巡らしたことだ。
各地に結ばれた鉄道網によって、獣車とは比べものにならないほど大量の物資を運ぶことができるようになり、人の往来も格段にしやすくなった。
その恩恵を僕も受けている。
夜行列車に乗り、それから獣車に揺られてたった数時間で僕はエスカルデに到着した。
昔なら何日もかけて行く旅を一日もかけることなく終えてしまった。それは間違いなく、エルンスト陛下の偉業のおかげだった。即位当時は二十に満たない若さ故に王都では不安の声があがっていたと言うけれど、今はそんなことはない。
グラン王国を大陸一の強国に育て上げたのはエルンスト陛下の手腕の元だ。
故に陛下は『賢王』と呼ばれ、多くの臣下と国民から敬われている。
(これまで僕は陛下のために何にもできなかったけど……もう違うんだ。だってこれからは領主として王国のために尽くせるんだから)
そんな決意を胸にして、僕は荷物を手にして、エスカルデの街に繰り出した。
エスカルデは王都から離れた土地だ。
だからここに来るまでは、とんでもない田舎町を想像していたけれど、そんなことは全然なかった。
確かに王都に比べれば街の規模は遙かに小さい。
だけれども通りを歩く人々は活気の満ちていて、その数も決して少なくはなかった。
嫌な印象はまったく受けなかった。
むしろ好ましいと思った。
(さて、何はともあれ城に行かなくちゃ……)
エスカルデ城はこの街で一番高い所。街の中心を抜け、北の丘を越えた所にある。
街の地図は手元はあるし、ただひたすらに北を目指して、丘を越えればいいのだから迷うことはないはずだ。
街の通りを歩いていると屋台が目に入った。
肉料理を売っているらしく、とても美味しそうな匂いがした。
でも、今は城に行くのが先だ。
城の中では僕の到着を待っている人たちがいるのだから寄り道をしている場合じゃない。
ちょっと残念だけど、観光はまた今度にしよう。
お腹に対する誘惑を振り切って、僕はひたすら通りを北に向かって進んでいった。
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