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                 3  信濃川ボートランプから河口へ三百メートル程下った対岸に川が流れ込んでいる個所があった。おれはエアボートを対岸に向けた。  通船川と呼ばれる連絡水路で、阿賀野川と結ばれている。市街地の真ん中を曲がりくねりなが流れている河川で、途中には貯木池もあり、材木の運搬船が行き交う。  水路には道路のように信号もないし渋滞もない。その分、スムーズに移動できるのが利点だ。  いくつかの橋脚の下をくぐると、阿賀野川と合流した。  河口付近の阿賀野川の幅はおよそ千二百メートルもある。対岸はるか向こうであり、目的地に到達するためには、真っ直ぐに横断しなければならなかった。千二百メートル前方に靄が流れていて、靄の陰に次の水路が口を開いていた。  ボートのエンジンを全開にしても川の流れを真横から食らうことになり、進路維持が難しい。おれは直進せずに遡上するコースを選んだ。遡上しながら川の中央まで進み、中央から今度は左へ舵を切り、川を下る航法である。要はUの字の放物線を描きながら、対岸の水路へ突入するのだ。  大雨のあとだが、川の水は茶色く濁っているだけで、水位は上昇していない。コンディションは可もなく不可もなくだ。おれはプロペラ出力と方向翼のバランスをとりながら舵を切った。  千二百メートルを渡り終えるまで八分を要した。    おれが乗り入れた水路は松浜川といって、通船川よりぐっと狭く、スピードを出し過ぎると護岸に衝突する恐れがあった。しかも雨で流れてきた漂流物にも注意だ。  しばらく進むと正面にコンクリート壁が立ちはだかった。T字型合流の水路だ。雨あがりのせいかこの辺りは水位も高く、濁流になっていた。おれは慎重にスティックを前に倒して右へ曲がった。濁流のしぶきが顔にかかる。  濁流の波に乗りながら進むと、新井郷川排水機場(にいごうがわはいすいきじょう)の水門が見えた。おれは水門の手前で舵を左へ切った。頭上に幹線道路の鉄橋が架かっていた。橋の下をくぐり、新井郷川水路から新発田川(しばたかわすいろ)を進むと、左手に新潟競馬場のスタンドが見えてきた。おれはスロトッルペダルを踏み続けた。  目的地の東港までもうすぐだった。  まもなくして木崎地区の水路交差点を通過した。あとは直線距離で千五百メートル。腕時計を見た。  十五時五十七分だった。  全身の力が抜けそうだった。たった三分で千五百を走破しなければならない。  
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