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おれはノートを捲り、アンボイナ貝の脱皮に関するレポートを探した。
刻々と時間が過ぎていく。時計を見る。16時まであと三十分。
冷汗が目に沁みる。まばたきを繰り返す。
その時、<イモ貝の共食い>という項目が目に止まった。
イモ貝のタガヤサンミナシ種は同じイモ貝のアンボイナ種を食しても死なないということらしい。つまり、アンボイナ貝にそっくりな別の種のアンボイナ貝もいて、どちらかが食べてしまったという事なんだろう。
それだけわかれば十分だった。
おれは目的の作業にとりかかった。ノートの最後ページの袋綴じからSDカードケースを抜いた。今度は医療用パッケージ開け、ピンセットを取り出す。
おれは慎重にアンボイナ貝の毒腺器官をピンセットでつまんだ。毒腺器官の矢舌は爪楊枝のように固く、先端の銛は薔薇の棘のように鋭くなっている。毒液がまだ垂れていた。おれは棘だけをナイフで切り、SDカードケースの中に仕込み、パチンと蓋を閉めた。今度は風船のように膨らんだ網状の吻を広げて、SDカードケースを包んだ。網状の組織にも毒液を塗りたくる。あとはコノトキシン爆弾に変身したSDカードケースを、袋綴じに戻して終わりだった。
おれはエアボートのGASボタンを押した。
プロペラが回転する。
いつのまのにか雨は止み、薄日が差していた。
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