99人が本棚に入れています
本棚に追加
「水道テロをやるつもりだろ。ノートに計画が書いてあったぞ」
「読んだのか」
「当然だよ。アンボイナ貝の変異種を養殖して、生物兵器の開発。コノトキシンからモルヒネの三十六倍効果の麻薬精製、こいつは反社会的勢力の資金源になるしな。インフラを狙ったテロで国家転覆をもくろむか。人体強化プロジェクトもあるな。収拾がつかなくなって、幕引きを図ろうとしてるみたいだが、規模がでかすぎて手に負えなくなったんじゃないのか。俺を始末したところで、何の得にもならないぞ。考え直せ」
「だいぶ勉強したようじゃないか」石塚は感心したように笑った。「あれはインフラテロの一例だ。本気ならもっとうまく隠す。そうは言っても、お前の幕引きという言葉は、的を得ている。否定はしない・・・さてと、前置きが長くなった。おい、ノートをこっちへもって来い」
「はっ」
茶髪の若い男が身体をこごめた。
おれはノートを踏み、勢いをつけて部屋の隅まで蹴とばした。
「てめえ、何しやがる! 拾ってこい!」
茶髪が吠えた。
「二人を解放してからだ!」
おれも怒鳴り返した。
「子供の指をねじ切ってもいいのかよ? おら、おらああ」
桃香の指を握っていた巨漢が喚いた。巨漢の手に力がこもるのがわかった。
桃香が泣きだし、梨乃が半狂乱になって、やめて、やめてと繰り返す。
「そんなことをしたら、お前ら全員殺す!」
おれの低い声は、奴らの失笑を買っただけだった。
「ぎゃはは。ばっかじゃねえ、このオッサン」
茶髪が顔を左右にくねくねさせながら、煙草臭い息を吐いた。
相手を見下した嘲笑はスキを生む。たった一人のオヤジがいいカッコしてるだけで、こちらの仲間は六人いるから、一対六で勝負にならないと勘違いしたのだ。オッサンがどんなに腕が立ってても、おれらにゃ叶わねえさ。おれたちゃ、血には慣れてるんだぜ・・・顔にそう書いてあった。
おれの動きは早かった。くねくねした顔の真ん中に頭突きを食らわせた。同時にそいつの小腸のあたりに右の膝蹴りをめり込ませ、続けざまに靴の先端で脛を蹴った。
「ぐぎゃ!」
くねくね顔は脛と顔を抑えて蹲った。
「てめえええ!」蜘蛛のタトゥをした男が赤い握りの斧を振り回した。「指切り落としてやる!」斧が一閃した。だが蜘蛛タトゥは斧を振り落とすことができなかった。おれが避けたからだ。斧の先端はおれの肩すれすれを滑り落ちていった。斧が床を打った瞬間、おれは横にいたスケボーファッションの男に飛びかかった。そいつはサバイバルナイフを構えていたが、使い方を知らなかったのだろう。あっという間におれはそいつのサバイバルナイフをもぎ取ることに成功した。もぎ取りながら強烈な肘打ちをそいつの横面にお見舞いする。ぐしゃりと変な音がした。頬歯が割れた音だ。まだフラフラと立っていたので、回し蹴りで吹っ飛ばした。
ベッド脇の巨漢が桃香の指を潰そう力を込めていた。
おれはナイフを投げた。ナイフは巨漢の心臓に吸い込まれた。巨漢は獣のように咆哮し、ナイフを自らの手で心臓からナイフを抜いた。そのナイフを桃香に突き刺そうとする。
おれは真正面から巨漢に体当たりした。その衝撃でナイフが床を滑っていく。巨漢は手負いの羆のように仁王立ちになった。二メートル近い身長がおれを見下ろした。
すぐ背後に蜘蛛のタトゥ男の斧を感じる。
真横からは鉄パイプを振りかぶった男が突っ込んできた。
「きえええええ!」
最初のコメントを投稿しよう!