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おれは真横にジャンプした。男は鉄パイプをバットのようにスイングしたが、おれの方がわずかに早かった。おれはそいつの腰にタックルし、両腕で胴体を締めつけながら一緒に床へ転がった。鉄パイプが落ちる。おれは鉄パイプをつかみ、そのまま床の上を半円を描くように滑らせた。鉄パイプは背後の斧を持った男のくるぶしに命中した。斧男がちょっとだけバランスを崩した。斧が振り下ろされる。おれは横に転がりながら斧男の右靴と左靴の間に鉄パイプを潜り込ませ、渾身の力を込めて捻った。斧男は足元をすくわれて、身体が一瞬宙に浮き、万歳姿勢のまま尻餅をついた。斧が斧男の股間の上に落下した。刃を下に向けて。斧男は絶叫した。斧男から斧が無くなれば斧男ではない。
鉄パイプの持ち主が起き上がり、ファイティングポーズを取って向かってきた。歯をむき出しにしている。おれは左のジャブで牽制し、相手が怯んだところを狙って右のストレートをくりだした。奴はタイの格闘技の経験者らしかった。おれのストレートをあっさりと交わし、回し蹴りを放ってきた。おれの太腿に命中した。これは、効いた。大腿骨が地響きをたてて、割れたような気がした。奴は間髪入れずに左ストレートを打ってきた。カミソリで切られたみたいな鋭い痛みが右頬に走った。続けざまに右ストレートが眼前に迫った。おれは避けきれず、顔面直撃をまともに食らった。眼の前が真っ白になり、天井も床もグルグル回る。喉の奥に血の味がした。
おれは他の連中に押さえつけられた。
意識が朦朧としているうちに形勢が逆転してしまったようだ。
羽交い絞めにされ、ボディブロウを食らった。息が止まった。口から内臓を吐きそうになる。
「ふざけたマネしやがって! こいつの手を切り落とせ! いや、その前に子供を殺す! そのあとにママも切り刻んでやる」
異様に甲高い声が響いた。
抜き身の日本刀を構えた男が桃香に迫っていた。眼だけが異常に血走って真っ赤だ。「どけや、せきとり!」せきとりとは、巨漢のことを指してるらしい。だが巨漢は動かなかった。おれに心臓を仕留められていたからだ。脳味噌に死がようやく伝わったらしい。そのまま桃香に覆いかぶさるように崩れ落ちた。
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