SD-COファイル

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 「ははん、そうなんだな」石塚は騙されなかった。「お前が袋綴じの中身を出すんだ。カミソリがなければ、問題なかろう。それで、人質は解放される」 「わかった。開封する」おれはノートを受け取った。こうなったら作戦変更だ。袋綴じの中身を引っ張りだしたら、石塚に飛びつき、一撃必殺だ。手加減しない。石塚の部下がナイフを下ろすよりも早く、動かなければならない。  おれは斧で股間を損傷した男に目をやった。血だまりの中でピクリとも動かない。奴はおれの拳銃をカーゴパンツの尻ポケットに差し込んでいたはずだ。予備弾倉もポケットに押し込んでいた。チャンスがあるとすれば、そこに賭けるしかない・・・ 「母親の指から落とせ」  だしぬけに、石塚が命じた。  時間が止まったと思った。黒づくめの男のナイフが梨乃の手に突き刺さった。梨乃は絶叫した。彼女の口から吐瀉物が溢れた。ショック状態なのだ。ベッドが赤く染まっていく。  ママ! ママ!  桃香が激しく泣く。  おれは凍りついたように動けない。 「よせ! やめろおおお!」  おれは羽交い絞めにされたのだ。今度はハングレどもの力とは違った。締め上げ方がプロだった。首まで絞まってくる。息ができない。 「よく、みろ。母親の指が落ちるところをな」  石塚がおれを覗きこんだ。「どのみち、お前たちは生きては帰れないのだ。死体はアンボイナ貝に食わせる。残った骨は硫酸タンクに漬け込んで溶かす。クラッシュ・オペレーションとはそういうことだ。残念ながら、楽には死ねない。なぜなら、俺は人が悶絶し、涙を流し、早く殺してくれと泣き叫ぶ声が好きだからだ。母親がどのくらいもつか、愉しみだな」  石塚はおれにボディブロウをかました。  ぐううう。胃袋が破裂したような激痛が走った。  その時だった。  部屋の外がにわかに騒がしくなった。  乾いた銃声が何発もこだました。  石塚の動きが止まった。「見て来い!」部下たちに命じる。  二人の黒づくめが部屋の外へ飛びだした。  梨乃たちにナイフを突きつけていた男たちも顔を上げた。  おれも何事が起きたのか理解できなかった。        
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