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秋風が紅葉した葉を舞い上げ古き良き街並みが美しいこの地に足を踏み入れたのは何年ぶりだろうか。
研究会で訪れた京の都。
ここは思い出深い土地。
彼女の誕生日でもある今日、そして最初で最後二人で旅行したここへ訪れたのは…運命なのだろうか?
毎年この日は落ち着かない気持ちになるが今夜はいつもにも増して、胸がざわめく。
喪失感にきりりと鳩尾の奥が切なく痛み、それを甘受する為、闇が訪れた街へ行く宛も無いまま歩き出した。
この痛みさえも、貴女を愛した…いや、今もなお愛してる証だ。
そう思えばそれさえも愛おしい。
時には憎く思う程、傷は深く想いは募るばかり。
急に連絡が取れなくなった理由を知った時には手遅れだった。
彼女の家は売家の看板が立ち、既に仕事を辞め行方が分からなくなっていた。
彼女が苦しんで身を引いたなどと知らなかった俺はたった一夜の過ちを犯した。
テーブルの上に並べられた彼女に贈ったアクセサリーと時計を目にし、永遠に彼女を失ってしまったのだと理解した俺は絶望とはこういう事なのだと初めて知り嘆き発狂したのだ。
これ以上苦しい事などないとそう思っていたのに…一度犯した大きな間違いは容易には赦されなかった。
あの女に嵌められ望まぬ子を授かり、望まぬ結婚をさせられた。
どれだけぞんざいな扱いをしても諦めない女。
宥められ時にはヒステリックに罵倒されても我慢比べの様にあの女に歩み寄る事さえ決してせず、端から拒絶し続けやっとの思いで離婚したのだ。
何をしていても何を食べていてもなんの感情もない。医師としてただ知識を得、それを活かし仕事をする事だけが…
俺を生かしている。
だからだろう、こんなにも息苦しくて仕方無いのは…。
貴女を失ってから、全てが色を無くし
生きている意味さえも分からない。
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