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ミステリーを後ろから読む
待ってるのが、いやだ。
マジックに連れて行かれればマジシャンに駆け寄ってタネとシカケを探す子どもだったし、
ミステリーを渡されれば後ろから読む青年だったし、
恋愛の駆け引きを前にすると手を振ってさよならする大人になった。
そんなわたしが最も憎んでいるのは「遠足前夜」だ。これはわたしの中で概念のひとつであり、「たいそう楽しみにしている日の前夜」という意味を持つ。
時間だけは、どうにもできない。寝てしまえば「今日」になるのだが、いつもいつも、目が冴えてしまう。
そう。実は、「待つのがいや」なのではなく、「楽しみにしすぎ屋」なのだ。その重みに耐えきれず、色々なことをしてしまう。
「………だからって、毎回私を起こさないでよ」
「そういうときは、いつだって妻を起こして、しがみついて泣くんです」
「村上春樹『沈黙』ごっこをすれば許されると思わないで。本当に許してしまいそうになるから」
「ごめんなさい」
「そういうところが好きだから、毎回こまっちゃうんだけど。
で、今回は何が楽しみなの?」
「きみの誕生日」
「責任感じちゃうなあ」
「サプライズを準備したから、楽しみ感が尋常じゃないんだ」
「あ、そういうの言っちゃうんだ」
「言っちゃうの、知ってるだろ」
「うん」
「だから、今から見せていいかな。そうしたら少し落ち着くと思うんだ」
「私もミステリーを後ろから読む派だから、まったく問題は無いよ」
こうして我々は毎年この時期になると、真夜中にベッドから抜け出して、サプライズの仕掛けを見学する旅に出かけるのである。
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