探偵についての考察、あるいは一晩のたわ言

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 身を寄せて真っ白な塔を築いていた雲は、綿をほぐすように引き伸ばされて空の青を吸い込んでいく。代わりに軽くなった身体で舞い上がって、空の高さを教えてくれる。夏はそうして移ろうのだと言われたら、子どもの頃の僕は信じただろうか。  天辺から十分高度を落とした太陽に今日の終わりが投影される。水色が鮮やかな秋めいた晴れの日は、浮ついた気分だったらさぞ楽しいことだろう。実際僕も、途中まではそうだったのだ。  運よく講義のない金曜なんて大学生にとって幸せ以外の何物でもない。午前中に見ていた情報番組ではころころした声が、明日からの連休も行楽日和ですねと伝えていた。  そう、明日から連休。  眠気に身を任せて二度寝するのもよし、大物の洗濯を風にはためかせるのもよし、ふらふらと街にくり出して店を冷やかすのも、公園でコーヒーを片手に読書にふけるのもいい。そんなささやかな予定を温めていたのに、きっと全て叶わない。  ポケットが腿に振動を伝える。  気のせいではないそれに意識を引かれて、僕はため息をついた。もしかしたらの可能性を考えてスマートフォンを取り出すと、傾きに反応して画面に光が灯る。期待外れで予想通りの名前と文章を視認して、操作はせずにポケットに滑り込ませた。同じ動作を繰り返す僕をずっと見ている人がいたら、幻想振動症候群(ファントム・バイブ・シンドローム)を疑ったかもしれない。
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